拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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帰還

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季節が何度か過ぎた。
例年よりも魔物の数が多いと言われていた現象は、実はスタンピードが起きる前触れだったことが分かり、国の中は一時大騒ぎになった。
それでも辺境伯領は砦としての役割を保ち続け、スタンピードの話は行き過ぎた見解だったのではないかという話になり、騒ぎは収まった。

それから暫くして魔物討伐は終息したと連絡を受けた。
討伐した魔物の数が発表され、否定された見解は正しかったことが証明された。
そして今回の魔物討伐に関わった者を労わるために王城の一部を公開し、豪華なパーティーを行うことが伝えられた。

「そ、それでこの招待状なのね…」

今回レリスロート子爵家からはアレンが討伐に参加していることから、王家から直々にパーティーへの招待状が発行された。
私は王家からの遣いが持ってきた招待状を振るえる手でお母様と共に手に持った。

「とんでもなく軽い筈なのに、とんでもなく重く感じるわ」
「ええ。子爵家が王族の開くパーティーへ参加することなんてないに等しいから……」
「ドレスは…今からでも間に合うかしら?」
「新調は難しいからリメイクする方向の方がいいかもしれないわ…」
「やっぱりそうよね」

ドレスの話と言えば思い出されるのが、アレンとのお揃いの乗馬服だ。
特注で頼んでいた為に、アレンがまだ屋敷にいる間では出来上がらなかった服は、アレンが魔物と対峙している間に到着した。
終息したはずの戦いからアレンはまだ帰ってきていない。
参戦者たちを国を救った英雄として讃える為に、そのまま王城へと向かわなければならないとかかれていたのだ。
だからお揃いの服は手を付けることをせず、そのまま保管している。

(どうせなら一緒にあけたいから…)

アレンからの手紙は何通も来ていた。
近況報告の他には、いつしかアレンにみせ判断できる情報を持っていないからと保留にしたいた婚約者候補たちの好ましくない情報がずらずらと書かれていた。
討伐中のアレンに情報を調べる余裕がどこにあるのかと私は疑問に思いながら、私は読み進めそして笑ってしまった。
だってアレンからプロポーズをされたのだから、お父様から渡された男性の中から選ぶ選択肢なんて当の昔になくなったのに、他の令息たちを選ばず待っていてほしいと書かれた手紙が頻繁に送られてきたのだ。
今回叙爵されなくても、必ず貴族になって私との婚姻を認めさせるからと。
アレンの熱い思いが書かれている手紙を見ていたら、当然のようにアレンは無事なんだなと思い、安心できるようになった。
だから私からも「討伐以外に時間を割く余裕があるのなら早く帰ってきて」と返事をした。
アレンからは「旦那様から婚約者候補が提示されたら破り捨ててください」と返ってくる。
そもそもお父様もお母様もアレンが私の結婚相手になることに否定的ではない。
寧ろ楽しみの一つともいえるように待ち構えているような姿勢だ。
だからお父様からの新たな候補者なんて提案はないに等しいが「勿論破り捨ててやるわ」と返すと「必ずそうしてくださいね」と返ってきた。
そんななんでもないやり取りが出来たことで、アレンの顔が見れなくて寂しくはあらが、それでも悲しくはなかった。
繋がっているとわかるから。



そしてアレンと一度も顔を会わせることなくパーティー当日になる。
私はお父様とお母様と共に参加した。
アレンを探すためにきょろきょろと周りを見渡しても、アレンらしき人物は見つけられることができなかった。

(どこにいるんだろう…)

もしかしてきていない?平民だから?と考えたが、そもそもアレンの功績が認められているからレリスロート子爵家も呼ばれたのだ。
そんな理由でアレンを参加させないわけがない。

この国の頂点に立つ王様が王妃様と共に現れた。
壇上に上がると、小声で話しあっていた人たちはぴたりと口を閉ざす。

「これより我が国を守った英雄達を紹介しよう」

王様がそういい、片手を高く上げると演奏が始まった。
扉が開かれ、会場の中央部分を通り入場していく人たちの中にアレンの姿を見つけた。

私は高揚した。
久しぶりに見れたアレンの姿。
大きな傷を負ったようには見えなかった。
見えない部分にあるだけかもしれないが、足を運ぶ仕草を見ても痛がる様子もないため怪我は治ったか、そもそも負っていないのだろうとホッとした。
手紙には近況報告は書いてあったが、細かい怪我のことは一つも書かれていなかったからだ。

全員が入場し終えると王様は一人一人の名前を読み上げた。
貴族も平民も区別なく名を読み上げたのだ。
それが私にはなんだが感慨深かった。
アレンがこの国の王様にも認められたようで、嬉しくなった。

「この中でより多くの魔物を討伐した者がいる。
私はその者に爵位を授けようと思う」

全ての参戦者の名を読み上げ終えた王様が唐突に言った一言に、他の貴族もそのような話は聞いていなかったのか、一瞬ざわめきが起こる。
だがすぐに静まった。
王様の言葉をかき消すという行為が不躾なものだと知っているからだ。
そして誰に爵位を与えられるのだと注目する中でアレンの名前が挙げられた。



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