上 下
13 / 26

重い想いとアレン視点1

しおりを挟む


綺麗だ。
素直にそう感じた。

でも一つ疑問に思った私は懐中時計を取り出す前にアレンを見上げる。

「…これ…」

この懐中時計によく似た時計を見た覚えがあったのだ。
アレンは微笑みを向けた後、胸元から同じデザインの懐中時計を見せた。

「私が今後もレリスロート子爵家から離れないという意思、そして……」

アレンはそこで言葉を区切る。
私の懐中時計とアレンの懐中時計をそれぞれ開き、私にみせた。

私は中にも刻まれた文字を、日付を読み上げる。

「xxx年xx月xx日……」

「私がミレーナ様に拾われた日です。
以前にもお伝えしたように、私はミレーナ様から離れるつもりは毛頭御座いません。
生涯ミレーナ様と共に生き、ミレーナ様以外に仕えるつもりはないと、その意思を刻み込みました。
そしてミレーナ様にも、私の気持ちを受け止めていただきたく、同じ物となりますがこちらをプレゼントしたいと、そのように思いプレゼントに選ばせていただきました」

「アレン……」

私は感動した。
アレンの気持ちを圧し潰していたわけではなかったのだと、無理やり従わせていたわけではなかったのだと、アレンはアレンの意思で私の傍にいることを選んでくれたことに感動した。

「おっも……」

私は小さく呟かれたエリザベス様の声で我に返る。
確かにこの懐中時計は少し“重い”。
男性が所持することが前提で作られているし、そもそも銀製だから重量感もでてくるだろう。
でも今気にするところはそこじゃない。

私は箱から懐中時計を取り出し、エリザベス様に見せつけた。

「エリザベス様、貴方は先ほどこちらの時計がアイテムだと、そのように仰っていましたね。
ですが、私が手にしてもアレンの心もエリザベス様の心もわかりません。
これでもこの時計が本当にエリザベス様が仰る“アイテム”といい続けますか?」

それから長い沈黙の後、エリザベス様は首を振って否定した。
それはエリザベス様がこの世界をもうゲームの世界ではなく、現実世界なのだと、きちんと受け入れたと意味する。


そして遠くから聞こえてきていた馬の足音は大きくなり、暫く待つと「おーい」と呼びかける声が聞こえてきた。

アレンがそれに返すと、見えなかった人影は大きく、そして表情がうかがえるほどにはっきりと見え始める。
月明かりも手伝ってくれているのだろう。
私の目にも子爵家で見慣れた人物だとわかった。

そして、やっと全てが終わったんだと感じることが出来た。









□(視点変更)


この国は狂っていると、初めにそう思ったのはいつだったろう。

親がいない俺は普通な存在ではないと、町の中を笑顔であるく家族の姿を見て知った。
そして自分の人生はとても理不尽なものだということも知ったのだ。

「うわーん!うわーん!」

空腹でボウとする意識の中、耳が痛くなるほどに高い泣き声に俺は眉をしかめた。
泣き声の正体は俺と同じ位のガキ。
それはそのガキをみて思った。
馬鹿なガキだと。
泣いていれば誰かが助けてくれると、そう思っていそうなガキに俺は心の中で毒づいた。

だが違った。
泣いた子供に周りの大きな人間たちは手を伸ばす。
「どこかけがをしたの?」「ご両親とはぐれてしまったの?」「お姉さんが見つけてあげるからね」と声を掛けていたのだ。

何故、とまず最初に思った。
そして、何度かそういう現場を目撃するたびに気付く。
子供は無条件に助けられる存在なのだと。
そう知ると俺にも声を掛けてもらいたい、助けてほしい、恵んでほしいと欲が出た。

俺はすぐに行動した。
町の往来で倒れてみせた。
でも決して演技ではない。
いつも飢えていた俺は、少しでも気が抜けば足をふらつかせてしまうのだ。

そして時間が過ぎた。
誰一人声をかけてくれる人はいなかった。
もう少しこのままでいてみようと、みっともなく思ったのは倒れている俺に気付かない事なんてありえないからだ。
だってこんなにも人通りがある。

だがいつまでたっても声を掛けてくれるものはいなかった。
何故、と再び俺は思った。
あいつらはよくて、俺はダメな理由がわからなかったのだ。

そして気付く。
助けられているガキたちには親がいて、俺にはいないこと。
親がいない子供は孤児と言われ、煙たがられていることを。

この国の人間は、皆おかしい。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

【完結】親に売られたお飾り令嬢は変態公爵に溺愛される

堀 和三盆
恋愛
 貧乏な伯爵家の長女として産まれた私。売れる物はすべて売り払い、いよいよ爵位を手放すか――というギリギリのところで、長女の私が変態相手に売られることが決まった。 『変態』相手と聞いて娼婦になることすら覚悟していたけれど、連れて来られた先は意外にも訳アリの公爵家。病弱だという公爵様は少し瘦せてはいるものの、おしゃれで背も高く顔もいい。  これはお前を愛することはない……とか言われちゃういわゆる『お飾り妻』かと予想したけれど、初夜から普通に愛された。それからも公爵様は面倒見が良くとっても優しい。  ……けれど。 「あんたなんて、ただのお飾りのお人形のクセに。だいたい気持ち悪いのよ」  自分は愛されていると誤解をしそうになった頃、メイドからそんな風にないがしろにされるようになってしまった。  暴言を吐かれ暴力を振るわれ、公爵様が居ないときには入浴は疎か食事すら出して貰えない。  そのうえ、段々と留守じゃないときでもひどい扱いを受けるようになってしまって……。  そんなある日。私のすぐ目の前で、お仕着せを脱いだ美人メイドが公爵様に迫る姿を見てしまう。

誰の子か分からない子を妊娠したのは私だと義妹に押し付けられた~入替義姉妹~

富士とまと
恋愛
子爵家には二人の娘がいる。 一人は天使のような妹。 もう一人は悪女の姉。 本当は、二人とも義妹だ。 義妹が、私に変装して夜会に出ては男を捕まえる。 私は社交の場に出ることはない。父に疎まれ使用人として扱われているから。 ある時、義妹の妊娠が発覚する。 義妹が領地で出産している間、今度は私が義妹のフリをして舞踏会へ行くことに……。そこで出会ったのは ……。 ハッピーエンド!

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~

皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。 それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。 それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。 「お父様、私は明日死にます!」 「ロザリア!!?」 しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。

処理中です...