拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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重い想いとアレン視点1

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綺麗だ。
素直にそう感じた。

でも一つ疑問に思った私は懐中時計を取り出す前にアレンを見上げる。

「…これ…」

この懐中時計によく似た時計を見た覚えがあったのだ。
アレンは微笑みを向けた後、胸元から同じデザインの懐中時計を見せた。

「私が今後もレリスロート子爵家から離れないという意思、そして……」

アレンはそこで言葉を区切る。
私の懐中時計とアレンの懐中時計をそれぞれ開き、私にみせた。

私は中にも刻まれた文字を、日付を読み上げる。

「xxx年xx月xx日……」

「私がミレーナ様に拾われた日です。
以前にもお伝えしたように、私はミレーナ様から離れるつもりは毛頭御座いません。
生涯ミレーナ様と共に生き、ミレーナ様以外に仕えるつもりはないと、その意思を刻み込みました。
そしてミレーナ様にも、私の気持ちを受け止めていただきたく、同じ物となりますがこちらをプレゼントしたいと、そのように思いプレゼントに選ばせていただきました」

「アレン……」

私は感動した。
アレンの気持ちを圧し潰していたわけではなかったのだと、無理やり従わせていたわけではなかったのだと、アレンはアレンの意思で私の傍にいることを選んでくれたことに感動した。

「おっも……」

私は小さく呟かれたエリザベス様の声で我に返る。
確かにこの懐中時計は少し“重い”。
男性が所持することが前提で作られているし、そもそも銀製だから重量感もでてくるだろう。
でも今気にするところはそこじゃない。

私は箱から懐中時計を取り出し、エリザベス様に見せつけた。

「エリザベス様、貴方は先ほどこちらの時計がアイテムだと、そのように仰っていましたね。
ですが、私が手にしてもアレンの心もエリザベス様の心もわかりません。
これでもこの時計が本当にエリザベス様が仰る“アイテム”といい続けますか?」

それから長い沈黙の後、エリザベス様は首を振って否定した。
それはエリザベス様がこの世界をもうゲームの世界ではなく、現実世界なのだと、きちんと受け入れたと意味する。


そして遠くから聞こえてきていた馬の足音は大きくなり、暫く待つと「おーい」と呼びかける声が聞こえてきた。

アレンがそれに返すと、見えなかった人影は大きく、そして表情がうかがえるほどにはっきりと見え始める。
月明かりも手伝ってくれているのだろう。
私の目にも子爵家で見慣れた人物だとわかった。

そして、やっと全てが終わったんだと感じることが出来た。









□(視点変更)


この国は狂っていると、初めにそう思ったのはいつだったろう。

親がいない俺は普通な存在ではないと、町の中を笑顔であるく家族の姿を見て知った。
そして自分の人生はとても理不尽なものだということも知ったのだ。

「うわーん!うわーん!」

空腹でボウとする意識の中、耳が痛くなるほどに高い泣き声に俺は眉をしかめた。
泣き声の正体は俺と同じ位のガキ。
それはそのガキをみて思った。
馬鹿なガキだと。
泣いていれば誰かが助けてくれると、そう思っていそうなガキに俺は心の中で毒づいた。

だが違った。
泣いた子供に周りの大きな人間たちは手を伸ばす。
「どこかけがをしたの?」「ご両親とはぐれてしまったの?」「お姉さんが見つけてあげるからね」と声を掛けていたのだ。

何故、とまず最初に思った。
そして、何度かそういう現場を目撃するたびに気付く。
子供は無条件に助けられる存在なのだと。
そう知ると俺にも声を掛けてもらいたい、助けてほしい、恵んでほしいと欲が出た。

俺はすぐに行動した。
町の往来で倒れてみせた。
でも決して演技ではない。
いつも飢えていた俺は、少しでも気が抜けば足をふらつかせてしまうのだ。

そして時間が過ぎた。
誰一人声をかけてくれる人はいなかった。
もう少しこのままでいてみようと、みっともなく思ったのは倒れている俺に気付かない事なんてありえないからだ。
だってこんなにも人通りがある。

だがいつまでたっても声を掛けてくれるものはいなかった。
何故、と再び俺は思った。
あいつらはよくて、俺はダメな理由がわからなかったのだ。

そして気付く。
助けられているガキたちには親がいて、俺にはいないこと。
親がいない子供は孤児と言われ、煙たがられていることを。

この国の人間は、皆おかしい。



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