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プレゼント

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「ミレーナ様、終わりました」

ニコリと花が咲くほどの爽やかな笑顔を向けるアレンをみて、私はほっと安堵する。
やっと終わったんだと、そう思えたからだ。

「ありがとう、助けに来てくれて」

「当然のことです。…ですが、ミレーナ様を少しの時間でも一人にさせてしまった私の落ち度でもございます。
本当に、大変申し訳_」

「謝らないで」

私はアレンの言葉を遮った。

「アレン。貴方は私を助けに来てくれたの。
謝ることなんてなにもない、寧ろ謝らなければいけないのはこんなことを企てたエリザベス様であり、そして実際に私を攫ったあの男たちなのよ」

「ですが私は…」

「アレンは私の指示で飲み物を買いに行った。
なにかを悔やまなければいけないのなら、それは私の方。
護衛の役割でもあるアレンを遠ざけてしまった、私の所為でアレンはなにもわるくない」

「……ミレーナ様…」

「といっても、私は自分自身よりもエリザベス様と実行犯が悪いと思うのだけどね!」

「…確かにそうですね」


くすくすと笑い合った私は、縛られたエリザベス様へと近づいた。
手足それぞれを縛ってしまうと多少なりとも動けてしまうことから、アレンは両手足を纏めて、しかも後ろ手に縛り上げた。
結び目も複雑で、目で見れたとしても、両手が自由だとしても簡単には解せないだろう結び方だった。

それでも先ほどの恐怖が忘れられていない私は、少しだけ距離をあけた場所で床に膝をついて座った。

「エリザベス様」

「…なによ」

エリザベス様はちらりと私へと視線を向けた後、すぐに逸らす。
まるで私の顔なんてみたくないといってるようだった。

「私はエリザベス様の考えている通り、転生者です」 

「ッ!」

「日本生まれで、日本人だった。その記憶があります」

「ならやっぱりアンタ_」

「でも、それだけです。前世の記憶を漠然と持っているだけ。
私はこの世界にあるような貴族と平民の身分差が前世になかったこと、自分が女性であったこと、学園も皆がいけるような環境だったことしか覚えていません」

「…は…?」

エリザベス様は呆けたように大きな口を開けた。

「エリザベス様は小説か、漫画、ゲームからこの世界に似た存在を知っていた。そしてここがその世界だと勘違いされていたことは、初対面のときエリザベス様の言葉からわかりました。
ですがここは現実世界です。ストーリーが決まっている創作された世界ではありません。
私のようなメインキャラクターではない人間も、命を宿して生きていることを理解してほしいと、そう思っています」

私はそれだけ言うと腰を上げて立ち上がった。
エリザベス様の返答は求めていない。ただ言いたかったのだ。
だから、返事を待つ必要もない。

「アレン、帰ろう」

「はい、ミレーナ様」

小屋から一歩外に出ると、空はまだ暗いが馬が駆けるような音が僅かに耳に入る。
私は思わずアレンを見上げた。

「どうやらもうそろそろのようですね」

「もしかして……」

「ええ、ミレーナ様を追っている途中他の者が真っ直ぐ迷わずこれるよう目印を付けておきました」

お茶目にウィンクをするアレンだがやっていることは本当に優秀だ。
これからどうやって帰ろうかと、あの男たちが乗ってきた馬車はきっともうないだろうから、帰るにしても徒歩になるだろう。
この痛む体でかなりの距離を歩かなければならないはずだと、そう思っていただけにアレンの優秀さが心にしみる。
感動で涙が出てきそうだ。

「ちょっと待ちなさいよ!」

小屋に残されたエリザベス様が声をあげた。
私は思わず振り返るが、アレンによって小屋の中に戻ることは出来なかった。
小屋の外にいる状態のまま、エリザベス様を伺う。

「ここがゲームの中じゃないっていったわよね!?ならそこの男が購入していたアイテムはなによ!?
人の心の中を覗くアイテム!それがゲームだという証拠よ!!」

現実世界なのだということを信じられないエリザベス様が必死な様子で訴える。
私は静かにアレンに尋ねた。

「アレン、貴方エリザベス様が“思っているような物”を買ったの?」

「いいえ。記憶にございません」

「そうよね。貴方私から離れる時はいつも用件を話してくれるもの」

確かにアレンは最近“なにか”を購入した。
それは来月の私の誕生日を祝う為、アレンが一人で出掛けたいと申し出たから知っていたことだ。
勿論プレゼントの中身まではわからないが、それがエリザベス様の“人の心の中を覗くアイテム”というものではないことは確かだ。
私がそういう物を欲しがらないことをアレンは知っているから。

「いいえ!私にはわかるわ!
なのに嘘をつくのね!?この世界がゲームの世界ではないと嘘をつくように!
自分がヒロインになりたいからって、本物のヒロインを悪役にするつもりなのよ!貴方は!」

「……なにをいって…」

「…るせぇな」

イラついたアレンの低い声が響く。
私は言いかけた言葉を飲み込み口を閉ざした。

「購入したのはミレーナ様へのプレゼントだ。
お前の言う“アイテム”なんかじゃない。
第一お前は言っていたな?他の攻略対象に近づくために必要だと。
アイテムがプレゼントであるなら、必要になってくるのは人物ではなく物だ。
しかもお前の元に俺がいたと仮定しても、アイテムの所有者は俺ではなくアンタということになるだろう。
なのにお前はずっと一貫して他の攻略者に近づく為には俺が必要だと言っていた。筋が通らねえんだよ。お前は。
本当に記憶があるのか?」

「そ、それは貴方も攻略対象だから!だから傍にいなきゃだめなの!」

「ハッ、攻略対象?付き従うだけの存在をいいように位置づけし、拒否できない要求をしていただけなんじゃないか?」

「なッ!」

「うっ」

エリザベス様と同様に私の胸も痛む。
私にとってアレンは家族のように大事な人だ。
アレンも私に対して恩を感じている。
でもそれを利用して、従者になったり護衛になったり、挙句の果てには執事にもなってもらうよう強要している…ともいえるだろう。
アレンにもやりたいことがあるのではないか。と私は今更ながらに気が付いた。

「…ミレーナ様」

「な、なに?」

ズキズキと痛む胸を押さえながら返事をすると、アレンは懐から綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

「本当は来月の誕生日にお渡しする予定ですが……、今お渡ししてもよろしいでしょうか?」

「え…っと、構わないよ」

というか、いつも持っていたのかとツッコみたくなるがそこはスルーする。
エリザベス様がアレンが買った私へのプレゼントをアイテムなる物だと誤解しているのは確かだから、今ここでそうではないことを示すためには受け取ったほうがいい。

「えっと、…あけるね」

「はい。どうぞ」

しゅるっと私と同じ茶色の髪の毛と同じリボンを解いて中を開ける。
するとそこにはレリスロート子爵家の家紋に似せたような模様が綺麗に刻まれた懐中時計が入っていた。


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