拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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救助にきてくれました

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「な!なぜここに!?」

エリザベス様が慌てた様子で立ち上がり、手に持ったナイフを助けに来てくれたアレンに向けながらじりじりと距離をとる。
私は上げていた頭を床に下した。
そして寝返るように体ごと動かす。

「ア、レン…」

アレンだ。
本物のアレンだ。
成長した今では私よりも賢くて、私よりも強くて、家族以外では一番に名前が出る程私が最も頼りにしている人物。
そのアレンが目の前にいる。
嬉しかった。
助かるんだって思う気持ちは勿論の事、アレンに会えてうれしいと、素直にそう思った。

「ミレーナ様、怖い思いをさせて申し訳ございません」

そんな言葉を掛けられた私は安堵から涙を流してしまい、アレンは申し訳なさそうな表情で胸ポケットからハンカチを取り出し私の涙を優しく拭う。
私達の様子を伺っていたエリザベス様が声を荒げた。

「ちょっと!無視するんじゃないわよ!
大体追手は撒いたはずよ!?ここを嗅ぎつけられるわけないのに!なんでいるのよ!?」

アレンは私を起こし、両手足を縛っている縄を解いてから、エリザベス様を見る。

「馬鹿かお前は。撒けていなかったからいる。それだけだろ」

「ば、バカって…第一外にはまだあいつらがいたでしょ!?あいつらはどうしたのよ!」

「気になるなら自分で確かめればいいだろうが」

こんな乱暴な口調のアレンを初めて見た私はきょとんと目が点になった。
まぁ確かに、アレンを連れてきた当初から周りに認めさせてやろうと色々つぎ込んできていたのだから、乱暴な口調のアレンをみる機会はそもそもない。
だけど……ちょっとだけ羨ましい。
素のアレンをみているようで。

「ミレーナ様」

「あ、はい!」

「私は大切な人には優しく接したい性分です」

「え」

アレンはにこりと微笑み、私を背にして立ち上がった。
ちょっと待って、どういうこと?
そんな疑問が私の口から出ることがないまま、アレンがエリザベス様に向き直る。

「さて、何故ミレーナ様を狙ったか…それを尋ねたいところだが、大体の見当は付いている」

「へ、へー。なら私が何を欲しているのかもうわかっているってことよね」

「“俺”………というより“アイテム”が欲しいのだろう?そのためにミレーナ様を攫った」

エリザベス様は言葉を詰まらせたが、それも一瞬の事で不敵な笑みを浮かべる。

「それで?」

「……茶会の後、お前は俺に監視を付けた。
お前の言う“アイテム”なる物を、“シナリオ”上での俺はこの時に手に入れるのだと“思い出した”から、わざわざ監視を付けたんだろ?」

アレンがそういうとエリザベス様は目を見開いた。
驚愕したとでもいうような表情だった。

「なんで名無しのアンタが……、攻略対象が転生者なんてありえないのに……。
そうか、だからストーリーがおかしくなったのね…。
キャラクターに転生するという不具合が起きたから……」

ぶつぶつと呟くエリザベス様。
私は打撲で痛む体をなんとか立ち上がらせ、アレンに傍に寄った。
私の気配を察したのか、なにを考えているのかわからないような表情を浮かべたまま、エリザベス様が私に視線を向ける。
そして小さく呟いた。

「…いえ、違うわ……」

キッと、何故か私を睨むエリザベス様に私の体は跳ね上がる。

「例え転生者でも孤児で味方もいない人間が、どうやっても一人でシナリオを変えられるわけがない!
つまりやっぱりアンタが元凶なのよ!ミレーナ・レリスロート!」

持っていたナイフを振り上げなら、突進するエリザベス様に私は咄嗟にアレンの服をギュッと握った。

「……“バグ”か。いい表現をするな」

思わず瞑ってしまった目を開き、状況を確認する。
ナイフを持っていたエリザベス様の腕をアレンが掴み、動きを封じていた。

「なによ!放しなさいよ!
不具合は直さないと正常には戻らないのよ?!」

「お前はこの世界の事を誰かが作った物語の世界だと考えている。
だから自分が主人公だと信じ、その物語に沿った行動を心掛け、そして違う動きをする原因を潰そうとしている」

「だからなによ!?」

「お前の言う理論は間違いないのか?この世界が本当に作られたものだと、本当に信じているのか?
人間を殺した先に、お前の望む未来があるのか?」

「はぁ!?」

「殺人者が罪を問われることなく、平然と生きていける世界だと、本当にそう思っているのかと聞いているんだ」

「は…、殺人者……?」

エリザベス様はアレンの言葉で、初めて自分が何をしようとしているのかを理解したのだろう。
自分の手に持つナイフを見て我に返ったのか、顔色を変えた。
床にナイフを落とし、エリザベス様は体から力が抜けたのか座り込む。
その様子を見たアレンは私を縛っていた縄を巧みに使い、エリザベス様を縛り上げた。



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