拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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犯人は…

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小屋の中は薄暗かった。
前世とは違い、この世界には電気というものは存在しない。
だから魔道具で明かりを灯すか、原始的な方法ではあるが蝋や油に火を灯して明かりとするかのどちらかである。

そして小さく簡易的な小屋には魔道具と呼べるものはなにも置いていなさそうに感じた。
そんな小屋だからか小さな火の明かりが弱弱しくも、小屋の一部を明るく灯していた。

私は顔を上げた。
小屋の広さは大体六畳ほどだろうか。
貴族の感覚で言えばかなり狭いが、前世の感覚で言えば十分な広さである。

火の明かりは私を誘拐した依頼人のすぐそばにあった。
依頼人は椅子に座り、位置口付近にいる私と私を誘拐した男二人とは距離が離れていた。
依頼人を見下ろすように立っている男二人は、依頼人の容姿はわからないだろう。
寧ろどのような容姿をしているのか悟らせない為に、明かりに魔道具を使わず、フードを被り椅子に座っているのではないかと思われた。
だけど、床に横たわる形になっている私には依頼人の容姿がはっきりと確認することが出来た。

ピンク色の髪の毛に、清楚さを伝えるピンクベージュ色の口紅がある人物を思い出させる。

(そんな……私を誘拐するように頼んだのは、エリザベス様なの…?)

私は愕然とした。

確かに彼女に対する印象は良くはない。
いきなり声を荒げ、意味の分からない事をいってきたりとまるで常識が欠けているという人だった。
謝罪の為に誘われたお茶会では、急に気分が悪くなったのか始終雰囲気が悪かった。
その原因は裏でアレンを引き抜こうとし、アレンに拒否されたことが理由だったと後からわかったが。

それでも彼女は私と同じ前世の記憶の持ち主だということは確信していた。
例え本人から聞いていなくとも、ゲームの知識があるということは、きっと同じ世界で同じような時代を生きてきた人なのだろうと予想していたから。

だから勝手に彼女も私と同じ日本で生まれ、日本人として育っているのだと。
今は日本人の感覚を抜け出せず、この世界では非常識な部分が生れてしまっているのだと。
だから根っこの部分では正常な人間であるのだと。
私はそう思っていたのだ。

だからショックだった。
彼女にとってアレンは攻略対象で、そして他の美男たちを誘惑する為に必要な存在。
それでもこの世界は現実で、アレンは渡せないと子爵家としてもアレン本人からも告げていたから諦めたのだろうと、そう思っていた。

なのに私を誘拐した。
何故誘拐したのが私なのか、きっと私を返す代わりにアレンを寄こせとでもいうのだろう。
アレンには既に拒否されている。
でもアレン自らが望むように、私を狙ったのだ。

だから…、だからショックだった。
同じ前世の記憶を持つ者として、同じ日本人だった者として、そしてなによりもアレンの重荷になってしまった私自身の存在が。
私は何もしてやれない、出来ない、寧ろ迷惑をかけているのだと、そう言われているかのようだった。

「ちょっと、随分早かったじゃない」

エリザベス様が男二人にそういった。
どうやら落ち合う時間にはかなり早かったらしい。
あれだけ乱暴な運転の仕方だった為、時間が迫っていたのだろうと思ったのだがそうではなかったらしい。

「わりいな。変なやつに後つけられてたんだ」

「え、なによそれ。追手を連れてきたって事?」

「連れてきてたらこんな暢気に話すわけねーだろ」

男性の話を聞いて「それもそうね」とエリザベス様が納得する。
私はふと、助けようとしてくれた従者の姿を思い出した。

(きっと彼が彼らの後を追ってくれていたのね…。
彼らの話を聞く限り、撒かれてしまったそうだけど…)

嬉しい気持ちが生れるが、これからの恐怖で不安な気持ちが嬉しい気持ちを侵食していく。

「まぁ撒いたならいいわ。
ほらこれが報酬よ」

丸みを帯びた巾着袋がかなりの重みを感じさせる音をたてながら床に落ちる。
男性たちはその巾着袋を拾うとすぐに小屋から出た。
きっと彼らの役目は私を誘拐するだけだったのだろうとわかると、私は少しだけ安堵する。
お金が絡めば平気で誘拐をするような男たちなら、もっとお金をもらったら私を痛めつけるのも躊躇なく行いそうだと思うからだ。

そして男たちが小屋から出ると、必然的に小屋には私とエリザベス様の二人きりになる。

「さぁ、どうして誘拐されたのかわかるかしら?」

エリザベス様の問いに私は首を振って答えた。
アレンと交換しようと思っているだろうけれど、エリザベス様の真意はわからないし、そもそも私の口元は布で覆うように縛られているのだ。
喋りたくとも喋れない。

そんな私を見て口元を塞いでいる布を、どこからともなく取りだした果物ナイフのようなもので刃を入れる。
口元を覆っていた布が外されたことで私の口は自由になったが、それでも言葉を発しようとは思わなかった。
チクリと痛んだ頬がエルザベス様の手にしているナイフで切られたとわかったからだ。

「せっかく喋れるように縄を切ってあげたんだからなんとかいいなさいよ」

溜息交じりにそう告げるエリザベス様。
だけどどうしてこの場面で平然と話せると思うのだろう。
布を切り落としたそのナイフは今もエリザベス様の手に握られ、私に向けられていたのだから。

エリザベス様は手に刃物を持っていて、片や私は両手足を縛られ横たわっている状態。
彼女がナイフを向けても、避けることも逃げることも出来ない状態で、平然と話せるわけがなかった。

「…ァレン、助けて…」

誘拐されたとわかった時からずっと心の中で思ってきた言葉が口から洩れる。
だけど私のその態度はエリザベス様をあおるようなものだったようで、初めて出会った時のようにエリザベス様は声を荒げた。

「はぁ!?助けになんてくるわけないでしょ!?
泣きべそかいて、アンタガキ?
ていうか私に話が通じないとか言っておきながらアンタの方が通じないでしょうよ!」

私はガタガタと震えた。
言葉だけなら耐えられる。
だけどそうじゃないのだ。
エリザベス様はナイフの腹で、私の頬をぺちぺちと叩いている。
それが恐怖で仕方なかった。

「ねぇ、私の質問、理解してますう??」

「ッ……」

表情を歪め、でも楽しそうに尋ねるエリザベス様。
こんな恐怖をあおるようなことをされて泣かない令嬢がこの国にどれぐらいいるだろうか。

その時だった。
風が吹いた。
扉を閉めれば密室状態になるこの小屋に、風が吹いたのだ。

「誘拐するような人間の思考回路をミレーナ様がわかるわけないだろ」

そして、ずっと助けを乞うていたその人物の声が聞こえた。


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