拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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お茶会

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案内をしてくれたメイドにお礼を告げて、私は他の令嬢たちも待っているガゼボへと向かう。
ガゼボに備え付けられているテーブルには私以外に三人の令嬢が座って待っていた。
流石に見覚えはないが、どこかぎこちなく会釈をする令嬢達に私は名乗りながらカーテシーをしてみせる。

「初めまして、私はミレーナ・レリスロートと申します」

私がそう名乗ると三人の令嬢は立ち上がりそれぞれ名を名乗る。

「初めまして、私はマーベル・グレミリオンと申します」

「私はヘレン・コルカーと申します」

「私はシャーロット・ハワードと申します。シャーロットとお呼びください」

三人と私はそれぞれ席に着いた。
主催者であるエリザベス様がまだ来ていなく、それまでの間暇を潰せるようにお茶を用意してもらったからだ。

「…あ、あの今日のお茶会は謝罪のためと聞いたのですが…」

おずおずと言った様子で、ヘレン・コルカーと名乗った女性が最初に口を開いた。

「ヘレン様、とお呼びしてもいいですか?」 

「あ、は、はい!構いません!」

「ありがとうございます。私の事はミレーナとお呼びください。
それで質問の件ですが、私も謝罪の為、とエリザベス様から伺っています」

ヘレン様の質問に対し私が答えると、ヘレン様は「ミレーナ様…」と呟いた。
頬を赤らませる彼女に母性本能がくすぐられたけれど、アレンで免疫がついている私は何でもない様子を装う。
でもいいなぁ、こういう子。
私のクラスは男子ばかりだからいまだに友達がいないのよね。

「私もミレーナ様と呼ばせてもらっていいですか?勿論私の事もマーベルと好きにお呼びください」

「ええ、構いませんよ。私からもマーベル様と呼ばせていただきますね」

「ではミレーナ様。私はエリザベス様から謝罪を受けるようなことはされていないのですが、ミレーナ様は心当たりがありますか?」

マーベル・グレミリオンと名乗った女性は私に尋ねる。
どうやら私が後から現れたことで、あらかじめ三人の中で共通認識を持てたのだろう。

「これを私が言っていいのかわかりかねますが…、今日からおよそ一週間前私はエリザベス様から呼び止められました。
そこで……少々私の理解が及ばない内容を告げられ………、当事者の私、そしてその時その場にいた方々に謝罪の意味でお茶会に招待すると伺いました。
ですのでエリザベス様と直接関わってなくとも、間接的に…ということで招待されたのだと思っていますわ」

「そういうことですか……」

私の言葉に納得したのか、マーベル様が頷く。
マーベル様は前世の表現で言うと体育会系スポーツ女子的なイメージだ。
日に焼けた健康的な肌は私から見ると好印象を与える。
そして思ったことも素直に言いそうなところも好感が持てる。

「一週間ほど前というと、一人の令嬢に声を荒げた女性を思い浮かべるのですが……」

最後に口を開いたのはシャーロット・ハワード様だ。

「はい。声を掛けられたのが私で、取り乱した令嬢というのがエリザベス様ですわ」

「ああ、あのとき私本当に近くにいたのですが、正直に言うと殆ど内容が理解できませんでしたの。
ミレーナ様はわかりましたか?」

「いいえ、私もシャーロッド様と同じくわかりませんでしたわ」

勿論ある意味では理解できるが、元のネタがわからない以上、私にはどうすれば彼女が目指す結果となるのかがわからない。
だからシャーロッド様と同じく理解できなかったと伝えた。

「そんなに難しいこと言われましたの?
…正直あの時は私急いでいたので声を荒げる人がいても気にも留めなかったですわ」

「あの時の事を気に留めないって凄いですね…」

「そうですか?」

「ええ。さすがに淑女教育を受けている筈の令嬢が公共の場で取り乱すことは滅多にありませんもの。
しかも侯爵家となれば余計に」

「へぇ、そういうものなのですね」

きょとんとするマーベル様に、あきれるシャーロッド様。
それを苦笑しながら見守るヘレン様は意外と相性がいいのかもしれない。

「…それにしてもエリザベス様遅いですね」

私がポツリと呟くと、同じく思っていたのか三人共同意する。

「ええ、準備が出来たと案内されたのに主催者が来ないなんて…」

「しかも私はもう二杯目ですわ。エリザベス様が来る頃にはお腹も膨れてしまいます」

「私も…。クッキーは美味しいですが…」

謝罪の為の茶会の筈なのに、招待客をお待たせしたまま放置だなんて流石に帰ろうかと思ったその時、やっとエリザベス様が姿を見せた。

「皆さまお待たせいたしました」

そういって現れたエリザベス様は少し機嫌が悪かったのか、私を茶会に誘った時のあの声色よりもずっと低く、そして少し怖い表情で私の事を睨みつける。

(謝罪の為じゃ、……なかったんだっけ?)

ゴクリと唾を飲み込み、立ち上がった私はなんとか笑顔でカーテシーをしたのだった。





始終気まずい思いをした私はその帰り道、馬車の中でアレンから衝撃的な話を聞くことになった。

「え?!直接勧誘された!?」

アレンを引き抜きたいという手紙にはお父様からはっきり拒否の意思を伝えている。
拒否をするのも、ただ拒否をするのではなくエリザベス様が洩らした情報からアーティファクトの存在をこちらで突き止めたというある意味の脅しを盾に断ろうという算段があったがそれはなくなった。
いや、形を変えたと言った方がいいだろう。
結局お父様と執事、そしてアレンが話し合い、エリザベス様の言っていたアイテムがアーティファクトではないだろうと判断したのだそうだ。
どうしてそう判断したのかまではわからないが、拒否の意思を伝えるその手紙に『エリザベス様が“アイテム”なるものを探そうとしている。それがアーティファクトと勘ぐる者が現われることが危惧されるため、エリザベス様とお話しをしたほうがいいのではないか』という言葉を添えるくらいはしたらしい。

でもエリザベス様は諦められなかったのか、アレンに直接勧誘をしていたというのだ。

「はい。頂いている給料はいくらか、レリスロート家よりも好条件で雇う等、いわれました」

「そっか……。
つまりお茶会に誘ったのは純粋に謝罪をしたかったわけじゃないということね」

「そのように受け取れますね。実際私からミレーナ様を引き離し、ニマニマとした気持ち悪い笑みを浮かべて近づいてきたわけですから」

「………それ、思っても本人にいっちゃだめなやつだからね?」

「それ、というのはどれのことでしょう?」

「……ううん。いいや。いう機会はたぶんないだろうから」

正直に言ってしまえは、エルザベス様の行動を残念に思う以外特になにも感じていなかった。
話が通じるという普通の態度を取られただけで信用してしまったのは私だから。
だからエリザベス様に、というより自分自身になにか言いたくなる。
やっぱりアレンに相談すればよかったのよとか、アレンじゃなくてもお父様にとか。

それと……。
アレンはきっとはっきり断ってくれただろう。
レリスロート子爵であるお父様から断られ、そして当人であるアレンからも断られたのだ。
もう流石にアレンを狙うことはないと思いたい。

(だって、アレンは私の大事な人だから…)

「そうですね」

そんなことを考えていたからアレンの言葉を聞いて、口に出してしまったのではないかと勘違いした私は咄嗟に口を押さえようと手を口元に持っていこうとした瞬間、アレンに手を握られた。

「私ははっきり断りましたので、もうあの女と関わることはないしょう」

「…、あ、そっちね」

「そっち?」

「ううん。こっちの話」

そして私は少し、繋がれたままの手を見てそわそわしたまま帰宅した。


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