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アーティファクト探しの前の情報交換

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結局私は前世の記憶があるということをお父様とアレン、そして執事に伝えることにした。
でないと、多くの戦力を派遣しようとするだろうことが目に浮かぶから。

まずエリザベス様が言ったセリフから私なりに考えられることを伝える。
どうして私なりに、なのかというと私にはエリザベス様が持っている元ネタがわからないからだ。

『私の攻略対象を奪っていいと思ってんの!?』

エリザベス様のセリフを思い出しながら、私は執事が用意してくれたホワイトボードに書き記した。

「まずこの攻略対象について、漠然とした前世の記憶を持つ私なりの解釈としては、攻略対象というのはアレンのことで、エリザベス様は自身をヒロインと思っていると思います」

赤い色の淵有り眼鏡_勿論度は入っていない_をかけた私は、細長い棒を持ちながら話す。
そんな私に向きあうようにソファに並んで座っていたお父様と執事は首を傾げた。

「何故アレンが攻略対象と考えられるのだ?」
「そもそも攻略対象というのは?」
「ミレーナ様、眼鏡姿も素敵です」

一人だけ真面目に聞いていないと思われるかもしれないが、アレンはこれが正常運転である。
一緒に家に呼んでいた家庭教師から教育を受けている時もこんな感じだった。
なのでこうみえて、話はしっかりと聞いていると思っていい。
長年の経験がスルースキルというものを私に与えた。

「はい。まず攻略対象という言葉ですが、これを説明する前に一つの物語のお話しを例に出しましょう。
皆さんは巷で流行っているという恋愛物語を知っていますか?」

「私は恋愛小説は…」

「旦那様、ここは私が。
…ミレーナ様、現在流行っている恋愛小説のタイトルは“眼鏡の下には”と認識しています」

片方だけのモノクルを光らせた執事は自信満々に告げる。
勿論答えは正解だ。

「その通りです。内容は正体を隠した女の子が、顔面がいい…つまりは美男達に好かれていくというもの。
勿論物語上最後は男性一人を選び結ばれますが、私の持っている前世の記憶はそうではありません」

首を傾げるお父様と執事に対して、さっきからキラキラした目を向けてくるアレンは紙を片手に手を動かしている。

「この国では小説は娯楽として好かれていますが、前世の私の世界では小説だけではなく、マンガというものやゲームというものも娯楽の一部です」

「ゲームというのは紳士たちが行うボードゲームだろう?それが先ほどの恋愛小説とどう関係するのだ?」

「お父様、この場合のゲームはそのような机上のお遊びではございません。
説明がしずらいのですが、美男達の各々と結ばれる物語が組み込まれているシュミレーションゲームなのです」

「しゅ、しゅみれーしょんげーむ…」

お父様が目を点にして私の言葉を繰り返す。

「はい。まず美男達にAからCまでの仮名をつけましょう。
小説ではA君、B君、C君と美男が登場しますが、最後はA君と結ばれます。
ですがこのシュミレーションゲームは、ヒロインに用意されたセリフや行動が複数あり、その選択した内容次第で小説では結ばれなかったB君との恋愛が可能となる。
そのようなものを恋愛シュミレーションゲームと呼んでいました。ちなみにゲーム機と呼ばれる端末を利用しますが、それを伝えられるような知識はありませんので聞かないでください」

「…あ、…ああ…」

「そして、事前に用意されたA君からC君の三人は、ヒロインが恋愛できる相手、つまり攻略できる相手となり、攻略対象といわれるようになりました」

ここまでわかりましたか?と確認を取ると、三人は頷いた。
良かった。

「では次に行きます」

『“名無し”がいないと始まらないのよ』

「この言葉についてですが、先ほどのエリザベス様のセリフとあわせて考えます。
まず“始まらない”という言葉は、この名無しという存在は非常に重要人物であるという事がわかります。
そして“攻略対象を奪わないで”この言葉から、私が“名無し”というエリザベス様にとって重要人物であり、“攻略対象”を奪ったと、つまり名無しと攻略対象は同一人物と考えられます。
さて、ここからは私が攻略対象の一人がアレンであると思った理由となります。
私がアレンを連れて帰ったあの時、アレンは“名前はない”とはっきりいいました。
つまりアレンはエリザベス様のいう“名無し”という人物に当てはまります。
そして私が連れて帰った人は今までで一人だけ。
個人的には“奪った”つもりはありませんが、それでも条件に当てはまる人物はアレン以外いないと考えられます」

そう説明した私にやっとアレンは今まで必死に動かいていた手を止めて口を開く。
ちなみに膝の上に下した手と共に紙に書かれた内容が見えたけれど、私の肖像画だったことは見て見ぬふりをしよう。
うまいけど、今話題にすると話が逸れてしまう。

「ミレーナ様は…私があの女と恋愛をする男だと…そう思っているのですか?」

「へ?」

愕然とした表情を浮かべるアレンはここで私が肯定すればすぐにでも泣いてしまいそうな程酷い顔をしていた。

「違うわ!そうではないの!
エリザベス様の言葉からそう推測できるって話しただけで、私はそんなこと思ってないわ!」

「………」

「本当よ!信じて!」

あれ、なんだろう。こう…浮気現場を目撃されたかのような雰囲気。
いや、勿論アレンがエリザベス様に想いを寄せてほしくはないのは事実だけど。
というか、今更アレンが私の元から離れていくのは嫌だ。寂しいし辛い。

「……ですよね。ミレーナ様は状況からそのように推測した、ただそれだけですよね」

私の言葉を信じてくれたのか、アレンが安堵したように微笑んだ。
良かった。

そんな私とアレンのやり取りを、お父様は少し複雑そうな表情を浮かべていたが話の続きをしようと思う。

『アレンがいないと必要なアイテムだって手に入らない。他の攻略対象にも容易に近づけない』

そして最後にエリザベス様が言った言葉をホワイトボードに書き込んだ。

「アレンがいないと必要なアイテムが手に入らない、という言葉の意味はわかりません。
アレンが物語上のストーリの中で偶然に見つけ出すのか、それともアレンが元から手にしているものなのか、これはエリザベス様しか今のところわからないでしょう」

そういった私に三人は頷いた。
同意見のようだ。

「ですが、“他の攻略対象にも容易に近づけない”という言葉から、エリザベス様が言ったアイテムがどのようなものなのかを推測することが出来ます。
まずエリザベス様の言葉から、エルザベス様は美男たちとの恋愛を求めていると考えられるため、物騒な攻撃系の魔道具ではないと考えられますね」

「そうだな。そのようなアイテムだったのなら女戦士として周りから推されるだろう。恋愛どころではないな」

「では私の推測を話す前に、恋愛小説の王道な男性相手としては、王族と騎士、そして国を支える立場の者があげられます。
例えば、王子や騎士団長、それに宰相や公爵家の方と言った感じですね。
ですがそのような方々に近づき恋愛をするというのは現実的な問題としてかなり難しいと考えられます」

「そうだな。基本的に立場が高い者の婚姻については王位の承諾が必要になる」

「その通りです。明らかな身分差がある場合は勿論ですが、高位貴族同士の婚姻も王家に対しての反乱を企てていないか、調査が入りますから」

ちなみに私の場合は子爵家という貴族の中でも爵位が低い立場であれば、王様の承認は不要である。
まぁ、公爵家が婚姻相手じゃなければが頭に付くが。

「そしてそのような立場の者は簡単にハニートラップに引っ掛からないよう幼いころから教育がされていると伺いましたし、守護の魔道具も身に着けていると聞いています。
その事からアイテムというのは、相手に精神的作用を起こすようなアイテムとは考えられません」

「確かにそうとも考えられるな……。だがそれがアーティファクトであればいくら守護の魔道具を身に着けたとしても相手の精神を操ることは出来るのではないか?」

お父様に尋ねられた私は左右に首を振って否定した。

「それは考えられません。
届け出がなく、そして承諾されていないアーティファクトの所持は犯罪です。しかも重罪であると私は認識しています。
その時点でも考えられませんが、仮にそのようなアーティファクトを使用したとしても、精神を操作する魔法は必ずわかります」

精神に干渉する魔法の類は最初は問題がないかもしれないが、積み重ねられると魔法を掛けられた者は人格が崩壊し、最後は廃人になってしまう。
守護の魔法を掻い潜れたとしても、明らかに魔法を使用したという証拠が残ってしまうのだ。
そこから調べられ、アーティファクトの所持が明らかになったのなら即処刑されてしまうだろう。

「恋愛をするなら長期間が前提、というわけだな……。
なら、お前はどのようなものだと考えられるのだ?」

お父様の問いに私は背を向けてホワイトボードに書き加える。
丸で囲って強調するのを忘れない。

「“心を読む”…か」

お父様は頷き、執事は少し呆気にとられたような表情を浮かべた。
そしてアレンは、私と同意見だったのか驚いた様子も見せていない。
ただじっと感情を見せないような表情を浮かべて私の方を見つめていた。

「はい。心の中で考えていることがわかれば、容易、とはいかずとも可能性は高められるでしょう。
相手の感情が手に取るようにわかるのですから、不快だと思われた時は身を引き、少しでも好意的に受け止められた場合はアピールを続ければいいのです」

「確かにな、それなら精神に対して干渉しているわけではない為、自らの口でばらさない限り心を読んでいることを知られることはない」

お父様は私に笑みを向けるが、これは私の推測であるためそれはきっちりとお伝えする。
そんな私をアレンがどのような気持ちで見つめているのかを、私は知らなかった。


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