2 / 26
七年という年月
しおりを挟む私が手を差し伸べた子供は男の子だったことがわかった私は驚きつつも、弟が出来たような気持ちになった。
一人っ子だった私は兄弟に憧れていたのだ。
だから嬉しかった。
だけど男の子は名前がないことがわかると私の喜びは一転する。
喜んだり落ち込んだりしていた私をどうみていたのか、男の子は私に名前を付けてほしいと願った。
私は男の子に“アレン”という名を与えた。
たぶん前世の記憶が影響しているのだと思う。
アレンという名前がパッと閃くように思いついたのだ。
アレンは嬉しそうに喜んだ。
『僕の名前はアレン』と刻み込むように名を噛みしめるアレンに胸が苦しくなった。
悲しいのか嬉しいのかわからなかったけど、きっと嬉しそうなアレンを見れて私も嬉しかったんだと思う。
ちなみに何故男の子だとは思わなかったのかというと、アレンの髪の毛が長かったからだ。
偏見かもしれないが、女の子は髪の毛を伸ばすイメージを持っていた私は、髪の長いアレンのことを女の子なんだと思っていたのだ。
そんなアレンと共に過ごし、七年が経った。
七年という期間は長くもあり短くもある。
アレンとの思い出は沢山出来た。
貴族の令嬢という立場の私はアレンと一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団では寝ることはなかったが、私は血の繋がった弟のように可愛がった。
私は一人っ子だった為に、弟か妹が欲しかったのだ。
文字が読めなかったアレンに絵本の読み聞かせを初め、その後は文字を教えた。
食事は素手じゃなくてナイフやフォーク、そしてスプーンを使うことを覚えさせた。
勿論ナイフの扱いに慣れない時は私が切ってあげたりした。
言葉の選びも、立ち振る舞いも、私がわかる限りでちゃんと教えた。
だって私の後ろをぴょこぴょこと付いて歩くアレンはとても可愛いのだ。
私は沢山沢山アレンを構った。
だけど周りはそうじゃなかった。
倒れているアレンを連れて帰ることを承諾してくれた両親は、その後もアレンにあまりいい顔をしなかった。
蔑ろにしているとかそういうわけじゃない。
どこかよそよそしく、距離を置いていただけだ。
だけどそれが周りの人にも伝わった。
ううん。これだとお父さまとお母さまの所為にしてしまっている。そうじゃないのだ。
当時、アレンの汚れてしまっていた服を脱いで、汚れてしまっていた肌を洗い、伸び切った髪を散髪したりと身なりを整えたアレンの孤児だったという事実は変わらない。
だからかお世話を任せたメイド達は揃って顔をひきつらせた。
嫌悪まではいかないにしても、何故自分がお世話をしなければならないのだろうかという気持ちが伝わってくる引き攣った笑みを浮かべていた。
綺麗にほほ笑んでいるように見せているのだろうけれど、私にはわかる。
どうして?アレンはこんなにも綺麗なのに。
褐色の肌は落ち着いているアレンによく似合い、まさに大人っぽく感じさせる肌色だ。
真っ黒な髪の毛も、身なりを整えさせた今は指通り滑らかに触り心地がいい。
黒い瞳も夜空のようでいて、光が瞳に映るとまるでお月様のように見えた。
白い歯も、褐色の肌から笑みと共に見えると、私よりもきれいに笑っているようで私は嬉しい。
だけど皆にはそう見えていないらしい。
孤児は孤児。何をしたって変わらない。
例え身なりを整えたとしても、孤児のお世話をしたくないと誰かが私の姿がみえないところでそう言っているのを聞いた。
私はその言葉を聞いて愕然とした。
人は等しく平等である。
孤児がなんだ。貴族がなんだ。
ただ生まれた環境の差で、どうしてそこまで差別されなければならないのか。
そんなことを五歳児として感じ、そして考えていた。
だけど私がメイドに声を荒げることはなかった。
小さな手で、だけど痩せて細くなった骨のような手が私の手を握ったからだ。
そして無垢な笑みをアレンがみせてくれた。
メイドの言葉はアレンの耳にも聞こえているはずなのに、アレンは綺麗に笑ったのだ。
そして私は思った。
『そうか、見せつけてやればいいんだ』と。
前世の記憶は鮮明ではない。
だけど、ショウガクセイやチュウガクセイでも企業を立ち上げた人はいた。
子供なのにという言葉なんて関係ない。
それはアレンにも当てはまるだろう。
孤児なのに、そんな言葉を言わせない程の人間になればいいのだと、私は思った。
だから私が習った全ての事を教え、そしてこれからの学習をアレンと共に行った。
勉強に興味がなかった_というより受けている教育内容が前世の漠然とした記憶の所為か答えがわかる_私は、度々授業を抜け出すことがあった。
それをお母さまは毎回咎め、そしてお父さまは「明日はちゃんと受けなさい」と優しく諭していた。
そんな私が毎日きちんと椅子に座り、先生と向き合っていた様子を、そして隣に座っているアレンに嬉々として教えていた私の姿を見た両親は、アレンの存在という効果を感じたのだろう。
狙った効果ではないもののアレンが傍で私と同じ授業を受けてもなにもいわなかった。
私がアレンに教えている姿を見て、『復習にもなる』といった先生の言葉を受けて両親はなにもいわなかった。
そして、そんな私の隣でメキメキとマナーを教養を身に着けたアレンを周りの人たちは見る目を変えた。
孤児でも天才はいるのだと、そう知らしめることに成功したのだ。
メイド達は私に対するようにアレンにも表情を和らげるようになった。
私は嬉しかった。
孤児という固定概念に囚われることなく、努力したアレンをみてくれた。
そして類稀なる才能を持っているだろうアレンを認めてくれた。
優秀過ぎるアレンに私はこれが正解だったのだと、感じたのだ。
そして七年が経った今、才能を認められたアレンは私の執事兼従者になる為に、共に学園に通うこととなった。
これが七年間の私とアレンの出来事だ。
155
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる