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七年という年月
しおりを挟む私が手を差し伸べた子供は男の子だったことがわかった私は驚きつつも、弟が出来たような気持ちになった。
一人っ子だった私は兄弟に憧れていたのだ。
だから嬉しかった。
だけど男の子は名前がないことがわかると私の喜びは一転する。
喜んだり落ち込んだりしていた私をどうみていたのか、男の子は私に名前を付けてほしいと願った。
私は男の子に“アレン”という名を与えた。
たぶん前世の記憶が影響しているのだと思う。
アレンという名前がパッと閃くように思いついたのだ。
アレンは嬉しそうに喜んだ。
『僕の名前はアレン』と刻み込むように名を噛みしめるアレンに胸が苦しくなった。
悲しいのか嬉しいのかわからなかったけど、きっと嬉しそうなアレンを見れて私も嬉しかったんだと思う。
ちなみに何故男の子だとは思わなかったのかというと、アレンの髪の毛が長かったからだ。
偏見かもしれないが、女の子は髪の毛を伸ばすイメージを持っていた私は、髪の長いアレンのことを女の子なんだと思っていたのだ。
そんなアレンと共に過ごし、七年が経った。
七年という期間は長くもあり短くもある。
アレンとの思い出は沢山出来た。
貴族の令嬢という立場の私はアレンと一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団では寝ることはなかったが、私は血の繋がった弟のように可愛がった。
私は一人っ子だった為に、弟か妹が欲しかったのだ。
文字が読めなかったアレンに絵本の読み聞かせを初め、その後は文字を教えた。
食事は素手じゃなくてナイフやフォーク、そしてスプーンを使うことを覚えさせた。
勿論ナイフの扱いに慣れない時は私が切ってあげたりした。
言葉の選びも、立ち振る舞いも、私がわかる限りでちゃんと教えた。
だって私の後ろをぴょこぴょこと付いて歩くアレンはとても可愛いのだ。
私は沢山沢山アレンを構った。
だけど周りはそうじゃなかった。
倒れているアレンを連れて帰ることを承諾してくれた両親は、その後もアレンにあまりいい顔をしなかった。
蔑ろにしているとかそういうわけじゃない。
どこかよそよそしく、距離を置いていただけだ。
だけどそれが周りの人にも伝わった。
ううん。これだとお父さまとお母さまの所為にしてしまっている。そうじゃないのだ。
当時、アレンの汚れてしまっていた服を脱いで、汚れてしまっていた肌を洗い、伸び切った髪を散髪したりと身なりを整えたアレンの孤児だったという事実は変わらない。
だからかお世話を任せたメイド達は揃って顔をひきつらせた。
嫌悪まではいかないにしても、何故自分がお世話をしなければならないのだろうかという気持ちが伝わってくる引き攣った笑みを浮かべていた。
綺麗にほほ笑んでいるように見せているのだろうけれど、私にはわかる。
どうして?アレンはこんなにも綺麗なのに。
褐色の肌は落ち着いているアレンによく似合い、まさに大人っぽく感じさせる肌色だ。
真っ黒な髪の毛も、身なりを整えさせた今は指通り滑らかに触り心地がいい。
黒い瞳も夜空のようでいて、光が瞳に映るとまるでお月様のように見えた。
白い歯も、褐色の肌から笑みと共に見えると、私よりもきれいに笑っているようで私は嬉しい。
だけど皆にはそう見えていないらしい。
孤児は孤児。何をしたって変わらない。
例え身なりを整えたとしても、孤児のお世話をしたくないと誰かが私の姿がみえないところでそう言っているのを聞いた。
私はその言葉を聞いて愕然とした。
人は等しく平等である。
孤児がなんだ。貴族がなんだ。
ただ生まれた環境の差で、どうしてそこまで差別されなければならないのか。
そんなことを五歳児として感じ、そして考えていた。
だけど私がメイドに声を荒げることはなかった。
小さな手で、だけど痩せて細くなった骨のような手が私の手を握ったからだ。
そして無垢な笑みをアレンがみせてくれた。
メイドの言葉はアレンの耳にも聞こえているはずなのに、アレンは綺麗に笑ったのだ。
そして私は思った。
『そうか、見せつけてやればいいんだ』と。
前世の記憶は鮮明ではない。
だけど、ショウガクセイやチュウガクセイでも企業を立ち上げた人はいた。
子供なのにという言葉なんて関係ない。
それはアレンにも当てはまるだろう。
孤児なのに、そんな言葉を言わせない程の人間になればいいのだと、私は思った。
だから私が習った全ての事を教え、そしてこれからの学習をアレンと共に行った。
勉強に興味がなかった_というより受けている教育内容が前世の漠然とした記憶の所為か答えがわかる_私は、度々授業を抜け出すことがあった。
それをお母さまは毎回咎め、そしてお父さまは「明日はちゃんと受けなさい」と優しく諭していた。
そんな私が毎日きちんと椅子に座り、先生と向き合っていた様子を、そして隣に座っているアレンに嬉々として教えていた私の姿を見た両親は、アレンの存在という効果を感じたのだろう。
狙った効果ではないもののアレンが傍で私と同じ授業を受けてもなにもいわなかった。
私がアレンに教えている姿を見て、『復習にもなる』といった先生の言葉を受けて両親はなにもいわなかった。
そして、そんな私の隣でメキメキとマナーを教養を身に着けたアレンを周りの人たちは見る目を変えた。
孤児でも天才はいるのだと、そう知らしめることに成功したのだ。
メイド達は私に対するようにアレンにも表情を和らげるようになった。
私は嬉しかった。
孤児という固定概念に囚われることなく、努力したアレンをみてくれた。
そして類稀なる才能を持っているだろうアレンを認めてくれた。
優秀過ぎるアレンに私はこれが正解だったのだと、感じたのだ。
そして七年が経った今、才能を認められたアレンは私の執事兼従者になる為に、共に学園に通うこととなった。
これが七年間の私とアレンの出来事だ。
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