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エルが来てから毎日が新鮮で楽しい。

私はルンルン気分で自分で作曲した鼻歌を口ずさみながら、習慣である森の見回りを行っていた。
勿論見回りは一人。

エルを家に残しておくのも心配だけど、それ以上に見回りに同行させることの方が危険がたくさんで、とてもじゃないが許すことが出来なかった。
それに家の周りにはライオンのライちゃんとか、沢山の動物たちにエルを守ってくれるようにお願いしているから安心できる。

エルは同じ人間なのになぜか足がとても遅い。
私より小さいからかな?
もう少し大きくなればもう少し早く走れるのようになるのかもしれない。
だから「ダメ、連れていけない」と告げた時のエルは頬を膨らまし、それがとてもかわいかった。
「…なら、同行させてもいいくらい強くしてくれよ!」といったエルに、私は魔法を教えた。
戸惑うエル。
理由を聞くと魔法は失われた技術らしい。
私は普通に使っていたから何が失われた技術なのか全くピンとこないし、それにエルにも魔力があるのに、と告げると驚きながらも食いついた。
目を輝かせて「俺も出来るのか!?魔法ってやつを!」とはしゃぐエルは、今でも鮮明に思い出せる。

私は思わずくすりと笑った。
私の様子に気付いた鳥たちが木の上から見下すから、私はなんでもないよと告げて足を進める。

エルは最初全然魔法が使えなかった。
私はシショーが教えてくれた呪文を唱えるだけですぐ発動できたのに、エルは呪文を口にするのも難しいみたい。


「<■■■■>だよ」

「ヴァルト?」

「違う違う。<■■■■>だよ」


といった感じで、発音がうまくなかったのだ。
そんなエルは「剣なら使えるのに…」口をとがらせる。


「ケン?なにそれ?」


そう問う私はエルから剣という物がどういうものかを教えもらい、私はそれに似た物を生み出す魔法を教えた。
実際には剣を生み出すんじゃなくて、強く思い描いた物を生み出す魔法だ。
だけどエルにそう告げると剣を生み出すようになるまで時間がかかりそうだと思った私は、剣の形を具現化できる魔法だよと教えた。
一言語だけでも言えるようになってやると、毎日朝から晩まで口に出し、やっと発動できた時には抱き合いながら喜んだものだ。


(そういえば、はしゃいだ後エルってばなんだか凄く照れてたな)


「うわああ!」と顔を真っ赤にさせて慌てて離れたエルを思い出す。


「ふふ」


まるで姉弟みたい。
蛇のビックンとかよくお姉ちゃんに体を巻きつかれてじゃれ合っているのを知っているから、余計にそう思う。
家族っていいな。姉弟っていいな。
エルが来てくれて私は本当に嬉しいのだ。


『デシだ!来てくれた!あっちに魔物がたくさん現れたって皆いってたよ!』

「ほんと!?それは大変だ!すぐ向かうね!皆は逃げ遅れた子たちがいないか見て欲しい!」

『わかった!』


今日も魔法を頑張っているエルにご馳走を持って帰らないとね!






エルと暮らし始めて”結構”日が経ったと思う。
ある日私は早朝からトレーニングを始めるエルを見て眉をひそめた。


「なんか、エルってば大きくなった?」


上半身の肌を晒し魔法で生み出した剣をブンブン振っているエルを眺めていた私はそう尋ねると、エルは剣を振っていた手を止めてにやりと笑う。


「ここで過ごして三年が経つからな。
それなりに体だって成長するだろう。成長期なんだから」

「ふーん」


そういうものなのか。
私はシショ―に拾われて”暫く”経ったけれど、エル程の成長期を経験したことがなかったからわからない。
エルが男の子だからなのか、成長期というものをもっているようで、エルは今では私より身長が高くなった。
昔は私の肩に抱えられるくらいの大きさだったのに、成長期という三年という月日は大きいものだと私は大きく息を吐いた。


(なんだか、羨ましいな…)


そんな消沈状態の私にエルはズンズンと近づいてきて、なにをするのかと見上げたところで膝の裏に腕を回されて持ち上げられる。


「わ!何するの!エル!」

「ハハハハハ!デシは小さいな!それに軽い!」


急に持ち上げられてビックリしたけれど、こんなに笑うエルを久しぶりに見た。
けど、なんだかどこか寂しそうにも見えるエルに、私は元気を出してもらおうと顔を近づける。


「ね、エル。今日の夜、私とイケないこと……する?」

「は、…な、はぁ!?!?」


激しく驚いた様子を見せながらも、エルは抱きかかえていた私を落とすことはしなかった。
だけど、顔が真っ赤に染まるその表情は昔から変わっていなくて、やっぱりエルは可愛いままだと思う。


「エルも出来るだけ早い方がいいでしょ?
だから、今日の夜にしようと思ったんだけど、……キツイ?」


ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた後、エルはコクリと頷き、「大丈夫だ」と呟いた。


「じゃあ夜ね。ちゃんと準備するんだよ」


再び頷くエルは、今度は口を開かなかった。
更に顔を赤く染め上げ、このままだと湯気が出てしまいそうなエルが心配で手を伸ばしたけれど、顔を逸らして避けられてしまう。
再び手を伸ばすと、抱き上げあげていた手をパッと放して、距離をとるエル。
そのまま森の中に逃げてしまった。

ま、いっか。

今日までずっと鍛錬し続けてきたエル。
今では家の周辺に現れる魔物を一人で倒せるようになったエルに、私は森の見回りの同行を許可しようと思ったのだ。

でもその前にちゃんと実力を確かめてからと思ったから、今日の見回りを終えて、ご飯を食べてからの時間帯。
つまりは夜だ。


『デシ―、エルがなんか真っ赤のまま走ってたけどー』

「きっと嬉しいんだと思うよ。私と一緒に行きたがってたからね」

『お!遂に許可出したんだね!
これで森の中がもっと安全になるぞー!』


喜ぶピーに私はそうだねと笑った。








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