無償の愛【完結】

あおくん

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47.告白【終】

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「あれ、煙だな……」

 眉をひそめ御者の後ろから前方を眺めるコベソの呟きが、幌の中にいる俺達に伝わると、それを見ようとリフィーナとフェルトが、腰を上げ外に乗り出した。

「あっ、ローフェンから?」
「そうでしょ。 今ローフェンに向かってるんだから」
「違う。 中から?」
「パッと見、分からんな。 もっと近づかないと」

 三人の姿で前方の景色が見えないが、隙間から空が見え灰色の煙が、チラッと見えた。
 このランドベルクに入っても空が紅く緑の太陽が登っているのだが、何故かあの煙が立ち込める所の空は、薄ら青さがある。

「あのローフェンの上空が、未だ青いって事は王や聖女様が存命だって事だな」

 座ったままのトンドが、コベソ達に声をかけるとそれに対し頷く三人は、トンドを見ずに煙が上がる前方を凝視している。

「どうして、王や聖女がいると空が変わらない?」
「ハーデスさん? あぁそうかぁ。 そんな世界って事ですよ」

 トンドは、俺の質問を少し悩みそして一瞬ボーッとした後適当に返事をしたように捉えた俺だが、トンドは続けて返事をする。

「なんて言ったらいいか、憶測しか話せないですからね。 正直、意味不明で聖国か帝国が、そんな事を発表していたって覚えているんですよ」
「あれだな。 聖女か王がいれば人族の領域みたいな」
「まぁ、そういう感じですね」

 コベソ達の隙間から覗ける空を見た俺は、馬車の後方を眺めている。

――――だから、あのローフェンを中心に外に向かって青から赤に……。

 ローフェンに向かい加速する馬車の中、ローフェンの状況をいち早く知ろうと前のめりになって外の様子が気になり釘付けになっている三人の視界に、ローフェンの高くて頑丈な壁に向かって群がっている人影が、目に入る。

「おい、あれ……」
「良く見えないわ」
「ちょっとぉ、速くしなさいって」

 リフィーナは、御史の襟首と肩を掴み激しく前後に揺らし煽らせている。

「痛いっすよぉ。 会頭!! このアホエルフどうにかしてください」
「あ、あんたまでっ」
「リフィーナっ。 揺すっても速くならん」
「止めなよ。 リフィーナ」

 揺するリフィーナを止めに入るフェルトは、そのまま幌の中になだれ込むように入る。

「いてててて」
「もぅ、何やらかしてるのっ」

 今まで静かに三人の後ろから外を眺めていたユカリが、二人いなくなった事で前方に見えるローフェンの壁を凝視する。

 地面蹴る車輪の音が激しく幌の中に響き、遠くに見えていた壁が次第に高くそびえると、コベソが御者の肩を叩く。

「おい、速度落としてここいら辺で停めろ」

 車輪の音が徐々に静かになり馬車の揺れも無くなっていくと、ここからでも鎧と円盾を装備し剣や斧などの武器を持つスケルトンと、明らかに村人の格好し壁を登ったり門を叩いたりとするゾンビにグールの動きがわかる。

「ありゃ、スケルトンソルジャーか?」
「だな、カツオフィレの兵士の成れの果てなのか……」
「奴らの数、セレヌの街にいた奴らより少ない」
「本陣は別の門なのかな」

 コベソとトンドは、鑑識眼を使いアンデッドを分析しているようでフェルトとリフィーナは、状況確認しているような見方だ。
 そして、ユカリが一言。

「みんな、武器を持って出るから」

 ヒッヒィィ~ン。

 その言葉を言った直後、馬車の引き馬が突如鳴き出しその声に門を攻めていたアンデッド全員がこちらを振り向く。

「げっ!!」
「最悪のタイミング」

 リフィーナとフェルトにミミンは、外に出ているユカリの後を追うように手持ちの武器を握り迫ってくるスケルトンソルジャーに立ち向かう。

「来るのはスケルトンソルジャーだけか……」
「どうした、コベソ?」
「あぁ、ハーデスさん。 ゾンビやグールは振り向いたけどこっちに来なくてな」
「鳴かせたのコベソ?」
「まぁ……そうですね。 奴ら全員こっちに来れば門開けて入れると思ったんだが」

 このまま待機の指示を出しユカリ達の戦いを見るコベソにトンドは、幌の中でゆっくりと席に座る。
「あの数ならユカリ達でもやれるか……。 ならこのまま先にすすんじゃったら」
「ペルセポネさん、ですが……」
「あそこにいるアンデッドぶっ壊せば良いんでしょ。 ならわたしとハーデスでやるから」
「トンド、ユカリ嬢ちゃん達に有るだけのポーションとか渡してくれ」
「おっ、それは既に渡したから安心しろ」
「いつの間に……。 まぁ、それなら先に進むぞ」

 御者が手網を捌き馬車を動かす。
 俺達を乗せた馬車は、スケルトンソルジャー達と対峙するユカリ達の横を通る。その馬車を見たリフィーナの慌てている顔が見えた。

「ちょっとぉぉぉぉっ」
「ミミン。 馬車を守って!!」
「おっーいっ」

 ミミンの火弾が、馬車の進行を阻もうと迫るスケルトンソルジャーの行動を阻止し、馬車はそのままローフェンの壁に向かって行く。

「やつら、置いていきやがった」
「大丈夫!!」
「ユカリ。 なんで?」
「私は勇者で、リフィーナ、あなた達は?」
「勇者のパーティー」
「なら、この状況は乗り越えられる」
「むぐぐぐぅ」
「この数なら気を抜かさなければ倒せるわ。 惹き付けるからリフィーナは、奴らを引っ掻き回してダメージを与えて――――」
「了解」
「――――ユカリとミミンで奴らを倒す」
「おっけぇー」
「任せて。 みんなこいつらを打破するよ」

 フェルトの作戦の指示を出しユカリの掛け声と共に開戦の掛け声を上げる三人は、迫り来るスケルトンソルジャーを睨み、次々に指示通りに行動し出していた。

「そろそろ着くぞ」
「アンデッドなのよね。 魔石持ちいないのかしら」
「倒したらスペクターが現れ持ってくるかもな」

 俺の言葉で少し目を輝かせるペルセポネだが、トンドが血の気を引き慌てた顔でこちらを見る。

「止めて下さいよ。 ハーデスさんもペルセポネさんも。 あんな薄気味悪い奴、何度も見たくない」
「俺も見た時やべぇと思ったもんな。 魔王バスダトのレベルなんて超えてるんだから」
「まぁ、現れても壊すだけだし」
「もし、そんな高レベルのスペクターを数多く従えている奴、今のユカリでは倒せんな」
「会頭、奴らがこっちを向きました」

 悩み出すコベソとトンドは、御者の声を聞き前方を確認すると、御者は手網を引き馬車は止まる。

「それじゃぁ、ハーデスさんペルセポネさんよろしくお願いします」
「任せろ」
「ずっと馬車の中だったから体解さないと」

 背伸びし腕や肩を動かしているペルセポネとハルバードを持ち馬車の前に出る俺達は、戦意をむき出しをし叫ぶグールとゾンビが迫ってくる。

「なんか、あれ見てるとアンデッドのアクションゲームみたいな光景ね」
「そうだな。 でも舞台はファンタジーなのだがな」
「手持ちの武器も……私は剣だし、アナタはそのハルバード。 アクションゲームみたいな」
「早く取り掛かるか。 もぅ、馬車が門の近くまで行ってるからな」
「そうね。 アンデッドが向こうに行かないのも気になるけど」
「そういうもんだろ。 何かあの馬車に有るのかもな」

 剣を軽く振るうペルセポネは、少し腰を低くし武器を構えると俺も合わせて迫ってくるアンデッド達を待ち受ける。
 地鳴りが響くような砂煙を立ち上げ、アンデッドの大行進が目の前で起きている。
 ゾンビは、ゆっくりと進むが先頭が横に揃っていてグールは、スキップをしているようだが腕の動きが、波を打つような変な動きをしながらこっちに来る。
 俺の横にいるペルセポネが、それを見て呟くような小さな悲痛がこもった声を出すと、二本の剣を空をかき乱すように切り刻み次第に声が荒らげる。

「キッ気持ち悪ぅぅうぅっ」

 ペルセポネの叫び声が、空まで響くような絶叫なるとピタリと止まるアンデッド達。

「はぁはぁ、何かあのグール? 空気を読んでない動きってヤツ」
「ペルセポネ、久々の運動みたいな事言ってたのにどうした」
「あのグールの動きみて何とも思わなかったの?」

――――ムスッとするペルセポネの表情は、可愛いけど。正直あのグール達を気にしてなかった。

「何も言うな。 気持ちは分かるけど……。 どうせ倒すんだから気にしてない」
「そうね。 まぁ、いいや肩動かしたし……」

 鞘に件を収めるペルセポネ。
 同時にアンデッド達は、体内に含んでいた血などの体液を撒き散らし肉体は、粉々に崩れて地面に転がっていた。

「おーい。 開けてくれ」
「おっ誰だ?」
「ヒロックアクツのコベソだ!!」
「ん~? ヒロックアクツ!! 待っていろ」

 コベソは、大声で先程までアンデッド達と攻防していた一人の兵と話すと、その兵はどこかに言っていしまう。

 ユカリ達の戦況を見ていると、ミミンの魔法やユカリのスキルでスケルトンソルジャーは、砕け再起してくる様子は無く、残りの数も数えられるぐらいだ。

「コベソ殿よ。 無理だ開けられん」
「何故だ?」
「未だ、あそこにアンデッドがいる。 奴らがいなくなったら安全を確認した上で開門する」
「門の付近にいないのだから開けられるだろっ」
「……すまん。 そう言う指示だ」

 申し訳なさそうな顔をする兵士に、黙ってしまいアタマを掻きむしるコベソは、振り返りユカリ達の方を眺めると、コベソと同じ方を見るトンドと共にコベソもゆっくりと口が大きく開き、目をひん剥いていた。

「まるデブ達何あんなに驚いているの?」
「ん? 俺たちの後ろ見ているのか?」

 俺とペルセポネは、コベソ達の視線をなぞりユカリ達の方へ振り返る。
 必死に最後のスケルトンソルジャー一体にトドメを刺すユカリ達の前に紫色のオーラが、燃えるように立ち込め、それが徐々に人影の形に整えていく存在が現れていた。
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