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12.お給料兼お小遣い
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いつもと同じ朝…ではなく、人の温もりを感じながら、朝日の眩しさで目を覚ます。
私と歳は変わらないと言っていたけれど、疑ってしまいそうになる程に鍛えられた体はちょっと硬くて、私の体をすっぽりと包み込むように抱きしめられていた。
でも肌触りのいい布や、レインの温もりが気持ちよくて、とてもよく眠れた。
(レイン、本当に抱き癖があるんだね)
ぐっすりと目を閉じ寝ているレインを見上げながら、そう思う。
なんだか心地よすぎて、このままでいたい気持ちも凄くあるけれど、起きてお手伝いしないとと思った私はレインの腕から抜け出そうともぞもぞと動く。
お義母さんのいっていたとおり、レインには抱き癖があったようだ。
寝る前は背中を合わせて寝ていた筈なのに、起きたときには向かいあった状態で抱きしめられていたんだから。
お陰で私は暖かくて心地よかったけどね。
「うわぁ!!!」
もぞもぞと動きすぎたのか、目が覚めたレインが腕の中にいる私を見て、悲鳴を上げながらベッドから落ちる。
ドタン!と大きな音がして思わず目を瞑った。
「お、おはよう…大丈夫?」
「だ、大丈夫だ…」
赤い顔してすぐさま立ちあがるレインに、痛くなかったのかなと見続けているとレインは寝間着を脱いで着替えを始める。
凄い、お腹の筋肉が割れてる。
思わず見入ってしまったが、私もベッドから降りて着替える為に寝間着を脱ぐと、「ば!おま!何してんだ!」と真っ赤にしたレインに怒られた。
「なにって…着替えだけど?」
「無防備には、ははは肌を!」とか言葉を詰まらせながら、必死で見ないように私に背を向けるレインに不思議に思いながらも着替えを進める。
無防備って…警戒しなくちゃいけないようなことはないと思うんだけど。
「あ、レイン服ありがとうね」
勿論女物の服もお義母さんに買ってもらったけれど、やっぱり普段着ているのはレインのおさがりが多い。
基本的にお店のお手伝いをしているから、お義母さんが買ってくれたようなヒラヒラしたお洒落な服は着る場面が少ないのだ。
「も、もう俺は着れないから…ッ!!!」
部屋のドアを勢いよく開ける音、そして階段を駆け下りる音に後ろを振り返ると、そこにはいたはずのレインがいなくなっていた。
「あれ?」
◆
私の毎日は、起床後顔を洗ってから、洗濯や掃除をしているお義母さんの手伝いをして、そして皆で朝食を食べる。
それから、開店準備をするのが日課になっていたので、この日も顔を洗った後裏道に向かった。
私の足音に気付いたお義母さんが振り返る。
「おはようアレン」
「お義母さん、おはよう。これ終わったやつ?私干しちゃうね」
籠に絞られた状態で入っている服やおしぼりたちを持ち上げて、2階に向かう。
一枚一枚皺を伸ばして干していると、干し終わる前にお義母さんがきた。
「あれ、早いね?」
「今日は早めの行動なのよ」
ニコニコ顔のお義母さんになにかあるのかな?と不思議に思いながらも話題を変えられた為、私はなにも聞かずにお義母さんとの会話を楽しみながら一緒に洗濯を干した。
「もう朝食できてるぞ」
ホカホカの朝食が並べられて、さらに窓からの光が後光のように差し込んで、料理が輝いている。
贔屓にしているパン屋さんのロールパンに、目玉焼きにソーセージ、コーンスープにサラダ。
ちなみに朝食はそこまでガッツリじゃない。
開店準備もあるから、サッと食べれるに越したことないよね。
食べすぎると動けなくなるし。
あ、そうだ。
パンといえば、贔屓にしているパン屋さんだけど、その息子のコクリ君はパンを作っているらしい。
今日のロールパンも以前買いに行ったとき、ちょうどレジをやっていて、まだお店には並べてもらえてないって言ってたけど、色々なパンを作っているっていってたことを思い出す。
というか、もうお店の準備に手をかけていたお義父さんを不思議に見やる。
速くない?お義母さんもだけど、本当に今日なにかあるのかな?
そして、気になることがもう一つ。
「レイン朝からシャワー浴びたの?」
朝食を前に髪の毛をぐっしょり濡らしたレインが椅子に座っていた。
ビクリと体を飛び跳ねらせたレインをみて、お義父さん吹き出し咳込む。
唾液が気管に詰まったのかな?
あれ意外と辛いよね。
「あ、肝心なことを伝えてなかったわね」
「なに?」
レインを見てほほ笑んだようなニヤニヤしているような…それでも楽しそうなお義母さんが、思い出したかのように私に振り返る。
「この国ではね、血がつながらなければどんな人とでも結婚できるのよ」
「へ?」
「養子縁組された兄妹でも結婚できるってことよ。
他にも貴族と平民でも可能だし、王子様と平民でも可能よ。
まぁその場合貴族や王族にふさわしいだけの教養が必要だけどね!
だからレインもアレンも、好きな人が出来たら他に奪われないように積極的にいきなさい」
ねえレイン?と濡れているレインの髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
いきなりそんな話をするお義母さんの意図がよくわからなくて、首を傾げながら濡れている髪の毛をお義母さんに拭かれているレイン。
二人の様子を見ていると、お義父さんが厨房から出てくる。
「アレンもここにきてそろそろ1月経つだろう?店に慣れたか?」
「うん。食器洗い以外全然出来てないけど、でもだいぶ慣れたと思うよ?」
出来れば食器洗いだけに手一杯になるんじゃなく、他のことも出来るようになりたい。
きっともっと数をこなしたら要領もつかめてくるだろうし…。
うん、もっと頑張ろう。
「なら、今日はアレンはお休み。レインと一緒に町みてこいよ。…ほら給料だ」
「へ?」
「やだアナタ、私たちの子なんだから小遣いの方が響きがいいわよ」
「そうか?」
そういいながらお義父さんが私の手を開きお金を握らせる。
「でも…」
「アレンは買い出しぐらいしか町にいってないだろ?
いい機会だしレインに案内してもらえ。レイン、いいな?」
コクリと頷くレインに、お義母さんがなにか囁いていたがレインが大きな声を上げながら遮っていた。
「だから今日いつもより早かったの?」
「ええ。今は2期の真っ最中だし、開店準備に手伝わせてたらゆっくり町を見る時間もないでしょ?」
「週1の休みでもアレンは手伝いばっかで休んでねーからな。楽しんで来い」
お義父さんのその言葉に、私が休日でも町に出かけず家事や買い出しの手伝いばかりしていることを、気にしていたのだとわかった。
「アレン、色々レインに案内してもらっておいでね。
あと、服も私が買ってあげた服を着ていくこと!着てるところ全然見れてないんだから。たまには、ね!」
「うんっ!」
「レインはアレンを守ること!デー_」
「わかってるよ!」
「…ふふ」
お義母さんの言葉を遮りながらも、私に振り向き「飯食ってとっとと行くぞ」と告げるレインの顔は赤かった。
そんなレインの様子を見てお義母さんはとても楽しそうだった。
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