10 / 26
CASE8 星野 梨々花の場合
しおりを挟む
(……これは緊急事態、緊急事態なんだからっ……)
トイレの順番を待つ間、私はそう自分に言い聞かせていた。普段なら、外のトイレ、特に私が今並んでいるような公園の端にある薄汚れた小さなトイレなんて、絶対に使わない。仮に家に帰る途中でトイレに行きたくなったとしても、こんなトイレは使わずに家まで我慢するくらい、私は家のトイレ以外でトイレを済ませたくなかった。
お嬢様気質で綺麗好き。私のことを簡単に言い表すなら、そんな言葉で十分だと思う。小さいころからきれいに掃除された家のトイレ以外でトイレを済ませることが嫌で、小学生の頃から学校でできるだけトイレに行かないようにしていたこともあって、いつしか私は学校でトイレに行かなくても長い時間我慢できるようになっていた。
とは言っても、体育の授業の後に水分を取りすぎた時とか、家まで我慢できなさそうな時でも大丈夫なように、中学校からは私立のトイレの綺麗な学校に通うことにして、今でも華水黄杏女学園の綺麗なトイレに時々お世話になることがある。
それくらい、普段から外ではトイレに行かない私だから、今日も家を出る前にトイレを済ませてからは1度もトイレに行っていないし、さっきのトイレ休憩の時もトイレに行っていないことは簡単に分かってもらえるだろう。
(うぅ……、こんなにトイレ行けなくなるなら、さっきのトイレ休憩の時に行っておけばよかった……)
バスが渋滞にはまっている間、ずっと私は自分の行動を後悔していた。やがて、先生が、
「トイレ休憩にするから、学校まで我慢できなさそうな子はここでトイレを済ませておいて」
と言っているのが聞こえた。
(学校まであと30分くらい……、それに、学校に着いても、混んでてトイレがすぐには使えないかもしれないし……)
おしっこの出口を手で押さえていればまだ我慢できそうだけれど、学校まで我慢できるかどうかと言われたら、途中で我慢できなくなっちゃうかもしれない。お漏らししちゃうよりは、本当は嫌だけれど、外のトイレを使った方がいいことは、自分の中で分かっていた。
だから、バスが停まったとき、私はトイレに行くために立とうとした。けれど、
「んうっ!?」
立ち上がった途端、おしっこの出口に向かって勢いよくおしっこがぶつかる感触がした。
(そういえば、恥ずかしくて手で押さえずに椅子で押さえてたから、今立ったら……)
一度椅子に座りなおして尿意が引くのを待ってから、私は片手でおしっこの出口を押さえてもう一度立ち上がった。
「嘘っ……」
バスを降りてトイレに向かうと、そこには既に何人かのクラスメイトが列を作っていた。
(こんなに並ぶの……? 確かに長い時間バスの中にいたから、みんながトイレに行きたくなるのも分かるけどさ……)
段々と我慢が利かなくなってくる膀胱をなだめるようにおしっこの出口を押さえながら、私はトイレの列に並んだ。
しばらくして段々と私の前に並んでいるクラスメイトに数は減っていって、やがて私の前に並んでいた福井さんがトイレの中に入っていった。
(あと1人……、早く、早く出てきてっ)
そんなことを考えていると、さっきトイレに入っていったはずの福井さんが顔をゆがめながら出てきた。
「あのっ、お手洗いの使い方が分からなくてっ……」
そう言って泣きそうになりながら私に助けを求める福井さんに引き込まれるように、私は個室の中に入った。
(ここ、和式なんだ)
私にとって、便器に触れなくていい和式はむしろ好都合だ。
「和式トイレなんだから、しゃがんでするだけじゃない。ほら、みんな並んでるんだから、早くしちゃって」
安心すると同時に、目の前にもう便器が見えている状態で尿意も限界になっていた私は、そう福井さんに言った。
すると、福井さんは相当切羽詰まっていたのか、私が見ている目の前でおしっこをし始めた。
(うわぁ……、たくさん出てる……。私も、早くおしっこ出したい……っ)
見てはいけないものだと思いながらも、私は目を逸らすことができなかった。
少しして、私に見られていることに気付いた福井さんが恥ずかしそうにトイレから出て行って、私にようやくトイレの順番が回ってきた。きちんとドアの鍵を閉めて、個室の中に私しかいないことを確認してから、私は下着を下ろしておしっこを出し始めた。
ぷしゃぁぁぁっ、とおしっこが大きな音を立てて噴き出してきて、
(……気持ちいい……、こんなに我慢したの、いつ振りだろ……)
と思わず気持ちよくなっていた。
トイレを済ませてバスに戻ると、福井さんが顔を真っ赤にしているのが見えた。
「……さっきは、見ちゃってごめん」
私が謝ると、福井さんは、
「いえ……。私が慌てていたので……。それに、梨々花さんがいなかったら、私、間に合っていなかったかもしれませんし……」
とうつむいたまま言った。
(なんか、福井さんが顔を真っ赤にしてるの、可愛いな……)
そんなことを思ったのは、他のみんなには秘密。
トイレの順番を待つ間、私はそう自分に言い聞かせていた。普段なら、外のトイレ、特に私が今並んでいるような公園の端にある薄汚れた小さなトイレなんて、絶対に使わない。仮に家に帰る途中でトイレに行きたくなったとしても、こんなトイレは使わずに家まで我慢するくらい、私は家のトイレ以外でトイレを済ませたくなかった。
お嬢様気質で綺麗好き。私のことを簡単に言い表すなら、そんな言葉で十分だと思う。小さいころからきれいに掃除された家のトイレ以外でトイレを済ませることが嫌で、小学生の頃から学校でできるだけトイレに行かないようにしていたこともあって、いつしか私は学校でトイレに行かなくても長い時間我慢できるようになっていた。
とは言っても、体育の授業の後に水分を取りすぎた時とか、家まで我慢できなさそうな時でも大丈夫なように、中学校からは私立のトイレの綺麗な学校に通うことにして、今でも華水黄杏女学園の綺麗なトイレに時々お世話になることがある。
それくらい、普段から外ではトイレに行かない私だから、今日も家を出る前にトイレを済ませてからは1度もトイレに行っていないし、さっきのトイレ休憩の時もトイレに行っていないことは簡単に分かってもらえるだろう。
(うぅ……、こんなにトイレ行けなくなるなら、さっきのトイレ休憩の時に行っておけばよかった……)
バスが渋滞にはまっている間、ずっと私は自分の行動を後悔していた。やがて、先生が、
「トイレ休憩にするから、学校まで我慢できなさそうな子はここでトイレを済ませておいて」
と言っているのが聞こえた。
(学校まであと30分くらい……、それに、学校に着いても、混んでてトイレがすぐには使えないかもしれないし……)
おしっこの出口を手で押さえていればまだ我慢できそうだけれど、学校まで我慢できるかどうかと言われたら、途中で我慢できなくなっちゃうかもしれない。お漏らししちゃうよりは、本当は嫌だけれど、外のトイレを使った方がいいことは、自分の中で分かっていた。
だから、バスが停まったとき、私はトイレに行くために立とうとした。けれど、
「んうっ!?」
立ち上がった途端、おしっこの出口に向かって勢いよくおしっこがぶつかる感触がした。
(そういえば、恥ずかしくて手で押さえずに椅子で押さえてたから、今立ったら……)
一度椅子に座りなおして尿意が引くのを待ってから、私は片手でおしっこの出口を押さえてもう一度立ち上がった。
「嘘っ……」
バスを降りてトイレに向かうと、そこには既に何人かのクラスメイトが列を作っていた。
(こんなに並ぶの……? 確かに長い時間バスの中にいたから、みんながトイレに行きたくなるのも分かるけどさ……)
段々と我慢が利かなくなってくる膀胱をなだめるようにおしっこの出口を押さえながら、私はトイレの列に並んだ。
しばらくして段々と私の前に並んでいるクラスメイトに数は減っていって、やがて私の前に並んでいた福井さんがトイレの中に入っていった。
(あと1人……、早く、早く出てきてっ)
そんなことを考えていると、さっきトイレに入っていったはずの福井さんが顔をゆがめながら出てきた。
「あのっ、お手洗いの使い方が分からなくてっ……」
そう言って泣きそうになりながら私に助けを求める福井さんに引き込まれるように、私は個室の中に入った。
(ここ、和式なんだ)
私にとって、便器に触れなくていい和式はむしろ好都合だ。
「和式トイレなんだから、しゃがんでするだけじゃない。ほら、みんな並んでるんだから、早くしちゃって」
安心すると同時に、目の前にもう便器が見えている状態で尿意も限界になっていた私は、そう福井さんに言った。
すると、福井さんは相当切羽詰まっていたのか、私が見ている目の前でおしっこをし始めた。
(うわぁ……、たくさん出てる……。私も、早くおしっこ出したい……っ)
見てはいけないものだと思いながらも、私は目を逸らすことができなかった。
少しして、私に見られていることに気付いた福井さんが恥ずかしそうにトイレから出て行って、私にようやくトイレの順番が回ってきた。きちんとドアの鍵を閉めて、個室の中に私しかいないことを確認してから、私は下着を下ろしておしっこを出し始めた。
ぷしゃぁぁぁっ、とおしっこが大きな音を立てて噴き出してきて、
(……気持ちいい……、こんなに我慢したの、いつ振りだろ……)
と思わず気持ちよくなっていた。
トイレを済ませてバスに戻ると、福井さんが顔を真っ赤にしているのが見えた。
「……さっきは、見ちゃってごめん」
私が謝ると、福井さんは、
「いえ……。私が慌てていたので……。それに、梨々花さんがいなかったら、私、間に合っていなかったかもしれませんし……」
とうつむいたまま言った。
(なんか、福井さんが顔を真っ赤にしてるの、可愛いな……)
そんなことを思ったのは、他のみんなには秘密。
12
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる