校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命

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CASE8 星野 梨々花の場合

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(……これは緊急事態、緊急事態なんだからっ……)

 トイレの順番を待つ間、私はそう自分に言い聞かせていた。普段なら、外のトイレ、特に私が今並んでいるような公園の端にある薄汚れた小さなトイレなんて、絶対に使わない。仮に家に帰る途中でトイレに行きたくなったとしても、こんなトイレは使わずに家まで我慢するくらい、私は家のトイレ以外でトイレを済ませたくなかった。

 お嬢様気質で綺麗好き。私のことを簡単に言い表すなら、そんな言葉で十分だと思う。小さいころからきれいに掃除された家のトイレ以外でトイレを済ませることが嫌で、小学生の頃から学校でできるだけトイレに行かないようにしていたこともあって、いつしか私は学校でトイレに行かなくても長い時間我慢できるようになっていた。

 とは言っても、体育の授業の後に水分を取りすぎた時とか、家まで我慢できなさそうな時でも大丈夫なように、中学校からは私立のトイレの綺麗な学校に通うことにして、今でも華水黄杏女学園の綺麗なトイレに時々お世話になることがある。

 それくらい、普段から外ではトイレに行かない私だから、今日も家を出る前にトイレを済ませてからは1度もトイレに行っていないし、さっきのトイレ休憩の時もトイレに行っていないことは簡単に分かってもらえるだろう。

(うぅ……、こんなにトイレ行けなくなるなら、さっきのトイレ休憩の時に行っておけばよかった……)

 バスが渋滞にはまっている間、ずっと私は自分の行動を後悔していた。やがて、先生が、

「トイレ休憩にするから、学校まで我慢できなさそうな子はここでトイレを済ませておいて」

と言っているのが聞こえた。

(学校まであと30分くらい……、それに、学校に着いても、混んでてトイレがすぐには使えないかもしれないし……)

 おしっこの出口を手で押さえていればまだ我慢できそうだけれど、学校まで我慢できるかどうかと言われたら、途中で我慢できなくなっちゃうかもしれない。お漏らししちゃうよりは、本当は嫌だけれど、外のトイレを使った方がいいことは、自分の中で分かっていた。

 だから、バスが停まったとき、私はトイレに行くために立とうとした。けれど、

「んうっ!?」

 立ち上がった途端、おしっこの出口に向かって勢いよくおしっこがぶつかる感触がした。

(そういえば、恥ずかしくて手で押さえずに椅子で押さえてたから、今立ったら……)

 一度椅子に座りなおして尿意が引くのを待ってから、私は片手でおしっこの出口を押さえてもう一度立ち上がった。

「嘘っ……」

 バスを降りてトイレに向かうと、そこには既に何人かのクラスメイトが列を作っていた。

(こんなに並ぶの……? 確かに長い時間バスの中にいたから、みんながトイレに行きたくなるのも分かるけどさ……)

 段々と我慢が利かなくなってくる膀胱をなだめるようにおしっこの出口を押さえながら、私はトイレの列に並んだ。

 しばらくして段々と私の前に並んでいるクラスメイトに数は減っていって、やがて私の前に並んでいた福井さんがトイレの中に入っていった。

(あと1人……、早く、早く出てきてっ)

 そんなことを考えていると、さっきトイレに入っていったはずの福井さんが顔をゆがめながら出てきた。

「あのっ、お手洗いの使い方が分からなくてっ……」

 そう言って泣きそうになりながら私に助けを求める福井さんに引き込まれるように、私は個室の中に入った。

(ここ、和式なんだ)

 私にとって、便器に触れなくていい和式はむしろ好都合だ。

「和式トイレなんだから、しゃがんでするだけじゃない。ほら、みんな並んでるんだから、早くしちゃって」

 安心すると同時に、目の前にもう便器が見えている状態で尿意も限界になっていた私は、そう福井さんに言った。

 すると、福井さんは相当切羽詰まっていたのか、私が見ている目の前でおしっこをし始めた。

(うわぁ……、たくさん出てる……。私も、早くおしっこ出したい……っ)

 見てはいけないものだと思いながらも、私は目を逸らすことができなかった。

 少しして、私に見られていることに気付いた福井さんが恥ずかしそうにトイレから出て行って、私にようやくトイレの順番が回ってきた。きちんとドアの鍵を閉めて、個室の中に私しかいないことを確認してから、私は下着を下ろしておしっこを出し始めた。

 ぷしゃぁぁぁっ、とおしっこが大きな音を立てて噴き出してきて、

(……気持ちいい……、こんなに我慢したの、いつ振りだろ……)

と思わず気持ちよくなっていた。

 トイレを済ませてバスに戻ると、福井さんが顔を真っ赤にしているのが見えた。

「……さっきは、見ちゃってごめん」

 私が謝ると、福井さんは、

「いえ……。私が慌てていたので……。それに、梨々花さんがいなかったら、私、間に合っていなかったかもしれませんし……」

とうつむいたまま言った。

(なんか、福井さんが顔を真っ赤にしてるの、可愛いな……)

 そんなことを思ったのは、他のみんなには秘密。
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