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023・福井栞その2

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(うぅ……いつになったらお手洗いに行けるのでしょうか……このままだと、もう、そんなに長くは我慢できません……)

 恐れていた事態──尿意を感じ始めてしまってから1時間近く経ち、栞の尿意はより鮮明なものになってしまっていた。

(……もう、最後にお手洗いに行ってから、2時間以上経ってます……っ)

 普段ならとっくにトイレに駆け込んでいるであろう尿意が、最後にトイレに行ってからの時間によって栞の脳内により強い意識を与える。片手で押さえていたのがいつの間にか両手で押さえられている大事な部分に、栞は一段と力を込める。

(……このままだと、私、クラスの皆さんの前で、お漏らし、しちゃいます……)

 尿意を感じてしまう前は「尿意を感じること」を恐れていた栞であったが、尿意を感じてしまった今、栞が恐れていたのは「最悪の事態」、つまり「お漏らし」であった。

 クラスメイトたちが乗っているバスの中で、おしっこを我慢できずに漏らしてしまい、下着もスカートも汚してしまう。そんな姿がよぎり、栞は慌てて首を横に振る。まっすぐな髪が左右に激しく揺さぶられ、黒縁の丸眼鏡の奥の目には涙が浮かんでいる。

 頻尿気味で真面目な栞にとって、お漏らしの恥ずかしい記憶は鮮明に残ってしまっている。小学生の頃、委員会の仕事を途中で抜け出せずにお漏らしをしてしまった記憶、中学生の頃、2時間続きの授業で我慢しきれずにおもらししてしまった記憶。これまでに何度も味わってしまった恥ずかしさと股の暖かさ、そしておしっこで濡れた不快感が、栞の脳内に最悪の事態をより鮮明に映し出す。

(は、早く、お、お手洗い……っ)

 今にも声が出てしまいそうなのを必死に抑えながら、栞はふと隣の席を見た。そこに座るクラスメイトの野乃華は、至って平然とした様子でそこに座っており、おしっこがしたいといった様子は一切見せておらず、栞のように両手で大事な部分を押さえるようなことも当然していなかった。

(野乃華さんは、まだ大丈夫みたいですね……うぅ、私だけお手洗いに行きたくなってしまっていたら……)

 より恥ずかしい状況を想像してしまい、栞の目に浮かんでいた涙が零れそうになる。

(うぅ……もう、漏らしてしまいそうです……お……お手洗い……おしっこ、したいです……)

 栞が心の中で切実な尿意を訴えていると、栞の横の通路を菜奈絵がよろよろと歩いていった。

(菜奈絵さん……? もしかして、菜奈絵さんも、お手洗いに……?)

 トイレに行きたくなってしまっているのが自分だけでないと分かり、栞は少し安心していた。しかし、すぐにはトイレに行けないということが分かると、栞の顔色は一気に悪くなった。

(……まだ、しばらくお手洗いに行けないなんて……うぅぅ……、も、もう、おしっこ漏れちゃいそうです……)

 お漏らしをしてしまった自分の姿が脳裏によぎり、栞は必死で振り払おうとする。

 じゅっ……じゅわわっ……

(う、あぁっ……す、すこし、出て……っ)

 大事な部分がほのかに暖かくなり、栞の頭の中の想像がより鮮明になってしまう。すでに栞の想像が現実となってしまうまでのカウントダウンは、始まってしまっているのだった。
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