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016・小倉美紀&向井真央その2

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「……ま、真央、ちゃあぁ……っ、うぁぁぁっ……」

「美紀ちゃん、あとちょっと……、きっと、あとちょっとで、トイレ、行けるから……」

 隣で目に涙を浮かべながら必死で黄色い濁流に抗う美紀を励まそうと、真央は小さな声でエールを送ろうとする。

「美紀ちゃん……大丈夫……?」

「……」

 少し美紀の喘ぎ声が収まったのを確認して、真央がそっと声を潜めて聞く。しかし、美紀は答えずに強く首を横に振った。答える余裕なんかないほどに切羽詰まってしまっているのは本当だったが、それ以上に美紀にとって真央の応援が少し鬱陶しくなってしまっていたのだ。

(真央ちゃん……、応援しかできないのは分かるけど……、いつもみたいに、私のこと、助けてよぉっ……!!)

 少しでも気を抜くと緩んでしまいそうになる小さな水門をきつく閉ざし、ぎゅうぅっ、とおしっこの出口を握るようにして押さえる。視線は天井の方を向いているが焦点はあっておらず、目に浮かんだ涙が今にも溢れだしそうになっていた。

「んぅっ……、んぁ……っ、んぁあぁっ……」

 黄色い濁流が一気に押し寄せ、美紀の水門に激しくぶつかる。

「美紀ちゃん……」

 不安そうな真央の声が聞こえる。美紀のことを励まそうとしているのだろうが、そのおどおどとした声に、美紀は歯を食いしばった。

(なんで、なんで真央ちゃん、いつもみたいに私のことを助けてくれないのっ……!! いつもみたいに、おトイレ連れてってよぉっ……!!)

 トイレの近い美紀にとって、真央は自分をトイレに連れ出してくれる救世主のような存在であった。

 授業中、おしっこが我慢できずに漏らしてしまいそうになった時。小学生の時、修学旅行のクラス別活動の途中でトイレに行きたくなってしまった時。中学生の時、部活中におしっこがしたくなってしまった時。いつも弱気で内気な自分をトイレに連れて行ってくれたのは、今も隣に座っている真央だった。

 本当は、美紀も今の状況では真央が自分のことを助けることはできないと分かっているはずだった。しかし、それ以外で「お漏らし」という最悪の結末を回避する手段が無い以上、美紀は真央の助けを待つしかないのだ。

(早くぅっ、はやくはやくうぅぅっ……おトイレ、おトイレ行かせてよぉぉっ……)

「美紀ちゃん……?」

「、……けて……」

「え? な、なに、どうしたの、美紀ちゃん?」

「たす、けて、よぉっ……!!」

 思わず美紀は強い口調になってしまう。真央はしばし言葉を失って、呆然としていた。

「私、もう、おしっこ出ちゃいそうなのっ!! いつもみたいに、真央ちゃん、おトイレ連れてってよぉっ!! いつもみたいに、私がお漏らししちゃわないように助けてよおっ……!!」

 ついに美紀の思いが溢れてしまう。目に溜まっていた涙が溢れ、大事な部分を押さえる左手にぽたぽたとこぼれる。それは、美紀の我慢がもう限界に達してしまったことを表していた。

「っ、あ、ぁっ、だめ……っで、ちゃっ……ぅ……」

 真央の手を強く握り締めながら、美紀は押し寄せる黄色い濁流に必死で堪える。

「……ごめん……」

 美紀の手を握り返しながら真央が小さな声で言った。

「ごめんね、美紀ちゃん……」

 真央の目には、幼馴染みのSOSに応えられない悔しさから、涙が浮かんでいた。

「トイレ連れていってあげられなくて、ごめんね……」

 真央の謝罪に、美紀は聞こえているのかいないのか、しきりに首を縦に振るばかり。

 しかし、美紀の下腹部のダムは、もう危険水位を越えて限界水位に達しつつあった。

 じゅじゅっ、じゅわわわっ……

「ぅぁっ、だ、だめえぇっ!!」

 激しさを増した黄色い濁流に、美紀は思わず右手を大事な部分に押し付けようとした。

 しかし、お互いに強く握っていたその手は離れず、結果として真央の左手が美紀の大事な部分に押し当てられた。

(……美紀ちゃん、もうスカートびしょびしょじゃん……うぅ、暖かくて、恥ずかしくて、私までおしっこ出ちゃいそう……)

 左手の甲に美紀のおしっこの温度を感じ、真央は思わず赤面した。
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