鈍感令嬢に恋したら、なぜかダンジョンに住む羽目になった王子の日常

桜乃

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心からのお願いです。大事な事は早く言ってください

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 俺は急いで、胸ポケットに入っている時計を見ると始業開始から1時間も経っている……今日も遅刻してしまった……

 からかい口調のエドワードは斜め上を見ながら、明らかに俺に聞こえるように呟く。

「クラリスは時間にルーズな男って嫌いなんですよねぇ」

 ゔっ……この元凶達めがっ! 大人げないぞ!!

 こうしちゃいられないと、ボロボロの体でよろよろしながら馬車にむかうが、体のあちこちが痛くて、思うように動けない。

 回復魔法、使っちゃおうかな。でも、俺、苦手なんだよな、回復魔法。それに……魔力もあまり残ってないし。

「はぁ……しょうがないですねぇ」

 今まで黙って様子を見ていたザラの声が、小さな溜息とともに俺の耳に届いた。ザラは右手の指をパチンと鳴らす。
 途端、俺の気力と体力がぐんぐんと……それはまるで泉に湧き出る水のように溢れ出す。ボロボロの体もすっかり元に戻り…………魔力までもが回復していた。

 あまりにも強い回復魔法に驚き、体力が戻った俺は両手を見つめ、手のひらを閉じたり開いたりしてみる。さっきまで剣を握る力もギリギリだったのに、今はなんの苦もなく手を動かせた。

 す、すごいな……指先1つ、しかも俺に触れずに、これだけの回復をさせるなんて。これが全魔道士の頂点に立つ男の魔法か……力の差は歴然だな……

 あまりに強大すぎる2人の力を目の当たりにし、自分の無謀さがおかしくなり、クスッと笑う。

 でも、絶対に絶対に諦めないからな。

 ザラの方をむき、俺は感謝を込めペコリと頭を下げた。

「ザラ先生……ありがとうございます」
「そんな姿ではクラリスが心配しますからね」

 ザラはチラッと冷ややかな視線を俺にむけ、いつも通りの無機質な声で言い放つ。御礼を述べながら、ふと疑問に思う。

 ……そもそも、俺がズタボロなのはお前達の力作ダンジョンのせいだが?

 まぁ、仕方ない。とりあえず、学園に行かなきゃな……早くクラリスに会いたい。

 では……と俺は馬車に乗る為、急ぎ足で歩き出すと、背中からザラの声が聞こえた。

「言い忘れてましたけど、学園は、今日、臨時休校です」

 ……
 ……
 ……
 ……え?

 俺は振り返って、ザラの顔を凝視するが、あまりの衝撃に言葉を失い、口をパクパクさせるだけだった。

「今日は学園休みですよ」

 俺の顔を見て、もう1度、感情なく言葉を発するザラ。

 …………や、す、み? 今、休みって言った?
 
 俺は心を落ち着かせる為、1度、大きく深呼吸をし、目をつむる。
 そして、ゆっくり目を開き、胸中で思いっ切り叫ぶ。


 早く言えぇぇぇぇぇぇ!!

 
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