上 下
271 / 298
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
 あれから3ヶ月が経った。
 僕と義姉さまは世間的には義姉弟きょうだいのまま。

 僕達は久しぶりの休みを利用して、あの湖畔の別宅に来ていた。

 時は夕刻。暦上は春とはいえ、まだ冬が去りきっていない季節である今の時期は、日が沈むのも早い。

「湖、見に行きましょ」
「寒くない?」
「大丈夫よ」
「ダメ。風邪引くでしょ。これ羽織って」

 僕は薄手のショールをフワッと義姉さまに被せる。

「ありがと」

 義姉さまはショールを片手でキュッと握り、ふふっと穏やかな笑みをむけた。

 湖のそばに並んで腰をおろしたが、沈黙したまま時間がすぎていく。だんだん辺りが暗くなり、僕は黙ってランプに火を灯した。

 ちらりちらりと輝きだした星は空が暗闇に包まれた瞬間、一斉にきらめきだす。湖面に輝く星たちは、あの時と変わらず美しい。

「綺麗ね……」
「……うん」

 ポツリとつぶやいた義姉さまに返事をしながら、1人で湖面を見つめていたあの日の光景を思い出す。

 手が届くのに、触れたら崩れてしまう湖面の星。

 僕は……触れて…………

 隣に座っていた義姉さまが少し前のめりになり、ぼんやりしていた僕の顔を笑いながら覗き込んだ。

「なに考えてるの?」
「大した事じゃないよ」

 僕の目を見て、クスッと笑う義姉さまの近さに戸惑った僕は、思わずプイッと顔を逸らす。

「あ、あのさ……僕にはいいけど……あんまり他の男の顔……覗き込まないでよね…………僕が……嫉妬する」

 火が出るんじゃないかと思うほど顔を熱くしながら、しどろもどろ話すと義姉さまはかぁぁっと赤くなり、スクッと立ち上がった。

「あ、うん。わ、わかったわ……あのね、いい事、思いついたのっ」

 僕の返事も待たずにタタタッと湖に走っていく予測不能な行動に苦笑しながら、ランプを片手にあとをついていく。

「どうしたの?」

 しゃがんでヘヘッと笑い、義姉さまは湖の水を両手ですくった。

「ほら! 見て! 星を捕まえたわ」

 自分の手の中の湖水に映った星を自慢げに僕に見せた。

 星が1つキラリと光る。

 僕は目を見開き、次の瞬間、無邪気に笑う義姉さまを強く強く抱きしめていた。

 ああ……湖面の星は手に入れられた!

 僕の手を引き、あの屋敷から連れ出してくれた時から、太陽のように笑ってくれた時から、僕は義姉さまだけを求めていた。

「痛いよ……ミカエル……」

 小さな小さなつぶやきに、少しだけ力を緩め、義姉さまの耳元に口を寄せる。


「結婚しよう…………クラリス」


 耳まで紅潮させ、うつむいたまま、小さくコクンと頷く目の前の愛する人がたまらなく愛おしい。下を向いたままの頬にそっと触れ、おでこにキスをした。

 真っ赤な顔を恥ずかしそうにゆっくり上げ、僕を見つめるブルーの瞳。

 唇を重ね、僕は目を閉じた。


 泣きそうになる。


 出会ったあの日に恋した義姉きみが、義弟ぼくの腕の中にいる奇跡に。




《fin》
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん
恋愛
とある国の辺境地にある修道院で育った“ニア”は、元伯爵令嬢だ。この国では、平民の殆どは魔力無しで、魔力持ちの殆どが貴族。その貴族でも魔力持ちは少ない。色んな事情から、魔力があると言う理由で、15歳の頃から働かされていた。ただ言われるがままに働くだけの毎日。 そんな日々を過ごしていたある日、新しい魔力持ちの……“おじさん魔道士”がやって来た。 ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただければ幸いです。 ❋気を付けてはいますが、どうしても誤字脱字を出してしまいます。すみません。 ❋他視点による話もあります。 ❋基本は、1日1話の更新になります。

救助隊との色恋はご自由に。

すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。 ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。 助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・ 香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」 ほたる(消防関係の人だ・・・!) 『消防署員』には苦い思い出がある。 できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。 しまいには・・・ 「ほたるから手を引け・・!」 「あきらめない!」 「俺とヨリを戻してくれ・・!」 「・・・・好きだ。」 「俺のものになれよ。」 みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。 『俺がいるから大丈夫』 そう言ってくれるのは誰? 私はもう・・・重荷になりたくない・・・! ※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。 すずなり。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...