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夜会にて……

side クラリス 6

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 ホールの中心まで私を連れて行くジェスター様……って、えっ!?

「ジェスター様!? そんな、ホールの目立つところに行かなくても!!」

 ジェスター様の美しい顔が極上に微笑む。

「大丈夫だよ。僕に任せて」

 なにが大丈夫なんですかぁぁ!!

「さ、曲が始まった」

 有無を言わさず、踊り出すジェスター様のリードに身を任せるしかなくなった私は、皆の注目を浴びていた。

 びっくりするほど、優しい甘いリードに周りの令嬢達が感嘆の溜息を漏らす。

 友人の私ですら、この国宝のような微笑みにとろけてしまいそう……

 うわぁぁ……危ない、危ない……ジェスター様と1度でも踊っちゃったら、どんな令嬢も恋に落ちちゃうよ…………この人、やばいって……もう一度言う、罪な男だ。

「どうして、こんな真ん中で?」
「ん? だって、見せつけたいじゃない? クラリスと踊っているところ」

 にっこり笑うジェスター様の顔が麗しすぎて、言葉を見失ってしまう。
 私が焦っている姿を見て、ジェスター様はクスクス笑った。

「少しは気晴らしになった?」
「あっ……」

 ……いつもとは違う少し強引なジェスター様の行動に翻弄され、ミカエルの事を考える余裕がなかった……私に元気がなかったから、ダンスに誘ってくれたのかな……

 そっか……やっぱり、優しいな。

「はい。ありがとうございます」

 ジェスター様が嬉しそうに微笑んだ時、ちょうど曲が終わった。

「名残惜しいな……」

 ポソッとつぶやく声が聞こえ、私は顔を上げる。ジェスター様はきゅっと手を握り、私にふらりと体を近づけた。顔が私の頬に軽くぶつかり、唇が当たる。

 えっ……ジェスター様、今、足元ふらつきました? 珍しい……疲れてるのかな?

 穏やかな微笑みを浮かべたジェスター様の顔に疲れは一切見えず、不思議に思い、まじまじと見てしまった。

「もう一曲踊る?」
「ストップ! そこまでだ」

 私は腕を後ろから掴まれ、グイッと引っ張られる。振り向くと、アルベルト様が憮然とした顔で立っていた。

 あの女性達の輪から無事生還できたのね……でも、どことなしかボロボロになっている気がするような……気のせいかな?
 
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