上 下
220 / 298
忘却の……

5

しおりを挟む
 にやにや笑っているんだろうなぁと安易に想像できるほど、愉快でたまらんという声が僕の頭に響く。

『愛、じゃ』

 あい?

 キョトンとしていると、シースアクト様はクックッと笑いをこぼした。

『魔力や家柄目的の男が近づくと、強力な力が腹に叩き込まれる魔法がかかっておる。腹を殴られるに近い感覚じゃな。あやつも容赦せんのぉ。まぁ、攻撃されとらんお主は及第点は取っとるということじゃて、安心せい。「ア・イ・チ・テ・ル」なんて青春じゃのぉ。ひゅーひゅーじゃのぉ』

 本当に楽しそうな声で僕を冷やかす気満々のシースアクト様の言葉を聞き流し、やっとわかった発動条件に思考を巡らせ始めると『こりゃ、無視するなぁ』とぼやきが聞こえた。が、気にせず、僕は考えに没頭する。

 なるほど。その発動条件ならば、絶対に攻撃されない自信がある。だが、アルベルトやジェスターも攻撃されていない……あの2人も本気だという事。

 改めて恋敵ライバル達の想いの強さを確認し、身が引き締まる思いだ。

『ふぉふぉふぉ、少しは自信がついたかの』

 満足そうな笑い声に顔を上げ、意識をシースアクト様に戻す。

 もしかして……自信を喪失していた僕を励ましにきてくれたの?

『やれやれ……とぉっても優しいわしは、もう1回お主に言うぞい。あの髪飾りはお主と彼女の隠れた欲望を引き出す魔法じゃ。良いか? 、じゃぞ。その意味をよぉぉく考えみてみぃ。じゃ、わしゃ、行くでの。また、イチャイチャする時は呼んでくれ』
「嫌です。そんな事よりもっと……」
『ふぉ、ふぉ、ふぉ』
「あの! ちょっと!」

 必死に呼び止めたが、すでに伝心魔法は遮断された後で僕の声だけが室内に響いた。

 もう! 一方的なんだから!

 呆れながらも、シースアクト様の言葉を脳内で繰り返す。

 義姉さまの隠れた欲望も引き出す魔法……?

 その言わんとする意味を理解した僕は、再びベッドに倒れ込み、ボワッと赤くなった顔を枕に押し当てた。

 か、勘違いするな。 
 シースアクト様は僕を使って、また趣味を満喫するつもりなんだ。騙されるな、僕。

 騙されないぞ……と強く心に刻んでもソワソワ落ち着かない。このたかぶった熱を発散させようと、ベッドの上で足をばたつかせる。

 困った……今夜も眠れそうにない。
 身体は疲労困憊なのに3日連続寝られないなんて……これは立派な拷問じゃないかぁ!
しおりを挟む

処理中です...