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バルコニーで……

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『だぁかぁらぁー若者のぉーイチャイチャをー』

 本当に本当に楽しそうな声が僕の頭の中で、グワングワン反響する。

「……がう」
『ほい?』
「ちがーーうっ! 聞こえなかったから、は?って言ったわけじゃない!! イチャイチャを見たいってどういう事ですかっっ」

 プツンと何かが切れた僕は、イライラをぶつけるように声を荒らげるが、そんなことはお構いなしにしれっと答えが返ってきた。

『趣味じゃ』

 はい?

 何を言っているのかわからず、一瞬、僕の思考が止まる。

『若者のな、イチャイチャを見るのはわしの趣味じゃ。チューまであと少しじゃったのにぃ』

 チューという言葉にボッと再び赤面してしまった。

 チ、チューって……

『チュウ、チュウ、チュウって、わしゃあ、手拍子打っとったのにのぉ』
「バカですか!?」

 も、ダメ……顔から炎が出そう……このまま、ぶっ倒れたい。

『お主もなかなか失礼な奴じゃのぉ。わしゃぁ、王宮魔道士長を務めていた叡智えいちの人じゃぞいっ』
叡智えいちの人って……普通は自分で言いません! ……ったく」

 なんとも言えない気恥ずかしさを紛らわす為、右腕を口元に当て、プイッと横を向く。

 あまりのことの成り行きに、もう、何がなんだかわからない。

「なんじゃ、なんじゃあ、照れておるのかぁ、このっこのっこのぉぉ」
「…………うるさいですよ」

 あきらかに面白がって僕を茶化している声にムッと返事をし、さっきから気になっていた事を口にした。

「……もしかして、僕と義姉さまが……その……いつもと違ったのは、シースアクト様の魔法のせいなんですか!? 魔法が発動したから、シースアクト様は覗きにきたんですか! 精神魔法は違法ですよ!!」

 髪飾りが魔法道具である以上、義姉さまにも、なにかしら影響を与えているはずで……もしかしてという疑惑から、だんだん確信に変わり、僕は叫んでしまう。

「お主、まあまあ賢いのぉ」

 腹立たしいほど、のほほんと感心する声が聞こえてくる。

 僕は頭を抱え、思わずその場にうずくまってしまった。


 改めて、思う……なんてもん買わされたんだ!!

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