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バルコニーで……

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 1人残され、なかなか治まらない鼓動をしずめる為、深呼吸を数回する。

 どうしたんだ……僕はいったい。
 今まで、何のために我慢していたのか。

 義姉さまにとって、僕はまだ義弟おとうとで、男として意識されていない。義弟ぼくの気持ちを義姉さまが知ったら、傍にいることすら叶わなくなるかもしれないのに。

 でも……でも、もし、あの2人が来なかったら?

 顔がかぁぁぁっと赤くなっていくのが、自分でもわかる。
 
 どうしようもなく高揚してしまった感情を持て余していると、身体をまとう空気にピリッと緊張が走った。

 顔を動かさず、目だけで周囲を確認し、右手に魔力を集中させる。

 なんだ、この強い魔力は? 何者?

『もうちょっとじゃったのに!』

 あれ? なんか……今……聞こえた?

『もっと、積極的にいかんかいっ!』

 え? なに……いまの……僕の頭に直接話しかけてる?

 突然、頭の中で響く声に驚き、集中させた魔力が解かれてしまう。

『おぬし、ちゃんと魔法の勉強しとるのか? 伝心魔法でんしんまほう、習ったじゃろ』

 習いましたけど! っていうか、誰!?

 伝心魔法は上級魔法の中でも難易度の高い魔法。
 この国でも、片手で数えられるくらいの魔道士しか使えないはずで……よって、僕に伝心魔法を使っている人はザラに匹敵するくらいの大魔道士……

 本日3人目の大魔道士が僕に話しかけている可能性は限りなくゼロに近く……っていうか、そんなにこの世の中にポンポン大魔道士がいるわけない。
 そうなると、ザラ以外に思い当たる大魔道士は1人だけ。

 僕は、さっき聞いたばかりの人物の名をつぶやいた。

「シース……アクト様?」
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