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バルコニーで……

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 義姉さまは少し驚いたようで、一瞬だけ目を見開いたが、頬を赤く染め、何も言わずにうつむいてしまう。

 ……僕の手を受け入れてくれた?

 男として触れた義姉さまの頬は……柔らかくて、温かくて、愛おしくてたまらなかった。
 
 僕が一生をかけて守るべき女性ひと……

 つややかな唇に目がいってしまい、僕の鼓動はトクトクトクと早鐘を打ち続ける。

 あごに触れ、義姉さまの顔を優しく持ち上げると、え……と小さくつぶやく声が薄紅の唇から漏れる。

 でも……それだけ。
 抵抗も否定もされない。

 僕はそのまま唇を寄せ……

「クラリス!」

 アルベルトとジェスターの声で、僕達2人はビクッと大きく肩を震わせた。飛び跳ねるように離れ、お互い背中をむける。

 えっ……なに……なにがあった?
 僕は今、義姉さまに何をしようとしてた?

 バクバクと強烈なスピードで動いている心臓に落ち着けと必死に言い聞かせながら、義姉さまをチラッと盗み見る。顔は良く見えないが、耳や首筋が真紅の薔薇くらいに染まっていて……その姿に僕の心臓は更にスピードを上げていった。

「クラリス。アルフォント公爵が探していたぞ。今日の主役なんだからな」

 アルベルトが義姉さまの腕をグイッと引っ張る。

 いつもの僕だったら、すぐに邪魔しに入るのだけど、今、精神的にそれどころじゃない……

 義姉さまを掴んだアルベルトの手をジェスターは無言で払いのけ、顔を背けている僕の方をチラリと見るといぶかしげな表情で義姉さまに質問する。

「ミカエルと何してたの?」
「い、いえ……なにも。おしゃべり、していただけです」
「……まぁ、いいけど。クラリス、公爵のところにいくよ」
「あ、は、はい」

 ジェスターは眼鏡を指で押し上げ、そっぽを向いている僕をじっと見据え、ふいに顔を近づけた。

「なにしてたんだ?」

 あきらかに怒気が含まれた低い声が耳元で聞こえる。

「いや……なにも……」

 僕が口ごもると「ふぅん」と疑惑的な目をし、アルベルトと一緒に義姉さまを連れて行ってしまった。
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