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誕生日パーティーで……

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 しばしの沈黙の後、頭に義父さまの手の重みを感じた。

「そうか。今、それを聞くとはなぁ。ちょっとあおりすぎたかな……」

 煽り……すぎた?
 朝から義父さまが結婚云々うんぬんと言っていたのは、僕を煽ってたの?

 僕は足元をじっと見つめた。

 やっぱり、僕の気持ちを知っていたんだ……知ったうえで、アルベルトの事を義父さまが言っていたのは……

 諦めろ。

 暗に、その一言を突きつけられ、ただでさえ痛かった胸の杭は、悲しみの感情も引き連れて、容赦なく奥まで入り込んでいく。

 言葉がでなくなり、僕は、ただ、うつむいていた。

「悪くないと思うぞ」

 続けて聞こえた義父さまの言葉に目を見開き、顔をゆっくり上げる。いつもと変わらない優しい眼差しが僕の瞳に映った。
 
 義父さまはうんうんと頷き、穏やかに微笑む。

「君が息子じゃなくなるのは寂しいが、娘婿でも悪くはないぞ」
 
 ずっと……それこそ、子供の頃から胸につかえていたものが、今、一気に溶けていった気がした。
 気持ちがどんどん溢れ出し、なんて言葉にすればいいのかわからないぐらい、僕の心に嬉しさが満ちていく。

「義父さま……ありが……とうございます」

 なんとか言葉を絞り出したが、泣くのを堪えているせいで、つっかえつっかえになってしまう。
 義父さまは、僕の頭をポンッと軽く叩いた。
 
「あんなに小さかったのに、ミカエルも男になったんだなぁ……今は王子の婚約者だから、私からは何も言えないが……あと少しで……ああ、ミカエル、ダンスが終わったようだ」

 義父さまは、少し含みを持たせてふふっと笑うと、義姉さまをエスコートしているアルベルトを見た。

 グッと顔を上げ、覚悟を決めた僕も、中央にいる2人を見る。

 そうだ。今は喜びを噛み締めている場合じゃない。

 アルベルトと義姉さまの婚約については、何も解決していない……どころか、僕にとって、最悪の状況になるかもしれないのだから。
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