上 下
187 / 298
町へ……

8

しおりを挟む

「アルフォント家の新規事業、大当たりじゃないか」
「ま、ね……」

 カップに防水魔法がかけられる許可が出てるのは義姉さま、ただ1人。
 他の人は真似できない。
 おかげで我が家のお菓子事業は右肩上がり。
 事業としては大成功。事業としては……ね。

 ……魔法使用許可証の話には続きがあった。

 意気揚々と魔法使用許可が下りた時の事を話していた義姉さま。

「でね、特別に国王様からもお言葉をいただいてね!」
「え……ちょっと、まって。義姉さま、国王様とお目通り叶ったの?」
「うん」

 屈託なく返事をした義姉さまに僕は絶句した。
 
 あんなに謁見、申し込んでたじゃない! せっかくのチャンス。
 なぜ、その時、婚約破棄の件を言わなかったのーー!?

 その事を指摘すると、義姉さまはハッとした顔をして、口元を手で塞ぎ「忘れてたわ……」と視線を落とした。

 ……事業に夢中で婚約してる事自体、忘れてたんじゃない!?

 僕は頭を抱える。 

 ……このままじゃ、義姉さまがぽやっとしてる間に、アルベルトと結婚させられちゃうよ!!

 すぐに謁見の申し込みをするも、梨のつぶてになり……たぶん、アルベルトが邪魔しているのだろうけど。結局、婚約破棄の事は言えずじまい。そうこうしているうちに、また忙しくなって……とうとう、今夜のアルベルトとのダンスを避ける事ができなくなってしまった。

 17歳の誕生日を迎える令嬢は、婚約者とファーストダンスをする慣習がある。

 絶対に阻止したかったのに。

 国王様といえば、褒美をつかわすって秘文書以来、音沙汰がない。いっその事、義姉さまの謁見を願い出ちゃおうかな。褒美としてさ。

「ねぇ、私達も食べません?」
「そうだね、クラリス、2人で食べ歩こう」

 あれこれ考えていると、ジェスターの聞き捨てならない台詞が聞こえ、僕は慌てて会話に割り込む。

「2人で……って、僕もいるけど!?」

「店に入ろう」と、さり気なく義姉さまと手を繋ぐジェスターの手をパシンと払い落とし、引きつった笑顔で文句をつけた。

 ホント、あっちもこっちも油断も隙もないっ!

「2人とも仲良しなんだからー」

 ぷっと吹き出す義姉さまに、僕とジェスターは顔を見合わせ、溜息をついた。

 購入したショートブレッド片手に、歩きながらサクッと食べ、紅茶をコクンと飲んで「うん、美味しい」と義姉さまは無邪気に笑う。

 目を離すと、すぐに誰かにかっさらわれるであろう義姉さまの幸せそうな笑顔を見つめ、僕もショートブレッドを口にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

処理中です...