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町へ……

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「あー男よけのペンダントまでしてるのかぁ」

 彼はクックッと可笑おかしそうに笑った。

 ザラのペンダントまで気がついたのか……

 どう考えてもただ者であるはずがない目の前の男性に、僕はキッと鋭い視線をむける。

「……貴方は……何者ですか?」
「俺ー? しがない銀細工師だよー」
「……そんなわけないでしょ」
「ほんとだってー、ああ、魔法を見破ったからー? これね、体質」

 いやいや……体質って一言で終わらせていい案件じゃない!

「まいったなー」と頭を掻きながら、彼は苦笑する。

人攫ひとさらいじゃないって、君を安心させたかったんだけどなー。とにかく大丈夫だからさ。ねえ、その髪飾り、触ってみる?」

 不信感が拭えない僕の手に髪飾りを乗せ、ニカッと笑った。

 ……なんか、調子狂うんだけど。

「どう? どう? 綺麗でしょ?」

 彼の呑気な言動に、ピリピリしている自分がなんだかバカらしくなってきて、僕は少し警戒を緩めてしまう。

 この人、悪い人ではなさそう……そんな気がする。不思議だ……なんでだろう……

「ね、触れてもさ、折れないでしょ? いや、折れたら髪飾りとして使えないけどさぁ」

 まぁ……そうだよね。

「君達もさぁ、大丈夫かもよ?」

 その言葉にドキリと心臓が跳ね上がった。

「俺さぁ、君の事、気に入ったの。その髪飾り、売ってあげるよ」
「えっ……でも、これ売り物じゃ」
「うん、そーなの。試作品でさぁ、売るつもりなかったんだけどさ、君になら、売ってもいいなぁ。ほら、やっぱり、良さがわかる人に買ってもらいたんだよねー」
「でも……」
「それにさ、君の恋も応援したいしさ」
「えっ?」
「ま、ま、それ、買っといて、損ないよ」
「値札も、ついてないし」
「あーだね。んーー」

 彼はポケットからメモ帳とペンを取り出し、サラサラと書きしるし、髪飾りの前に置いた。

「はい! 値段つけたよ」
「えっ……でも……これじゃあ……」

 値札の数字を二度見した後、男性のニコニコ顔を見つめてしまう僕。

 その数字は子供のお小遣いで買えるくらいの値段で……いや、これだけの銀細工、こんな値段なわけ無いよね!?
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