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町へ……

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 デートが台無しになり、落胆していた僕は、馬車の窓から流れる景色を眺め、自分を慰めていた。
 
 誰よりも先に祝福したのは僕なんだ。
 デートはダメになったけど……夜中の祝福は2人だけの秘……

「夜中に一緒に食べたケーキのお店ってどこかな? お菓子開発の参考にしたいわ!」

 衝撃の質問を受け、ゴンッと顔を窓にぶつけてしまう。

「……え……大丈夫?」

 ……大丈夫じゃない!!
 仕事熱心もいいけど、義姉さま、ぶっちゃけすぎ!!

「……クラリス、誰とケーキを食べたって?」

 あのジェスターが義姉さまの台詞を聞き逃すわけがなく、「ミカエルですけど?」ときょとんとした顔で答える義姉さまに、ジェスターはにっこり微笑んだ。

「そう……、とね。にね……どうして、そんな状況に?」

 なにを勘違いしたのか、義姉さまは夜中にケーキを食べたことを咎められていると思ったらしい。

「夜中のケーキは体に良くないですが……年2回だけですし……」
「義姉さま!」

 真面目に答えている義姉さまには悪いんだけど、ジェスターが聞いてるのは、そこじゃない!

 慌てて義姉さまの耳元に口を寄せ「夜中の祝福は2人だけの秘密でしょ!」とコソッと囁き、義姉さまがこれ以上ぶっちゃけるのを阻止する。

 義姉さまは「あっ」と声を漏らし、黙り込んだ。

「年に2回? なにしてるの?」

 穏やかな笑顔で質問……いや、尋問してくるジェスター……僕に対して怒っているのがビンビンに伝わってくる。

 困ったな。

 二の句がげないでいると、馬車が止まり「着きました」という御者の声。

 ナイスタイミング!

 馬車を降りた僕達は、いぶかしんでいるジェスターをなんとか誤魔化し、話題を逸らしながら、新しくできた雑貨屋に入ることにした。

 はぁぁ……危なかった。

 僕は胸を撫で下ろし、お洒落な雑貨が所狭ところせましと並んでいる店内で、義姉さまの楽しそうな様子を微笑ましく見ていたが、ふと、奥にも店が広がっている事に気がつき、ふらりと足を踏み入れる。

 アクセサリー店も併設してるのか。

 数点のアクセサリーが並んでいるだけのシンプルな空間に、ひっそりと飾ってあった髪飾りが僕の足を止めた。

 上品で繊細な銀細工の髪飾り。

 花……薔薇ばらかな……小さな薔薇が散りばめられていて、ところどころに埋め込まれている石のカットは素晴らしく、小さな光にも反射し、キラリと輝いていた。

 綺麗だな……

「それ、気に入った?」

 後ろからの声に振り向くと、30代前半くらいのひょろっとした男性がニコニコと立っていた。
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