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誕生日の朝に……

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 この国の17歳は特別だ。

 社交界にデビューし、結婚できる年齢になる。

 男は仕事だの社交倶楽部だので、いつの間にか社交界に入っているけれど、女性は17歳の誕生日にパーティーを開き、社交界デビューと結婚年齢になった事をお祝いするのがしきたりだ。

 17歳という年齢の壁が僕の前にそびえ立つ。

 アルベルトはとっくに17歳になっている。ジェスターも、だ。
 僕だけ……僕だけがまだ結婚年齢に達していない。

「失礼いたします」

 僕の思考はセリナの声によって中断された。
 大きな花束を持ったセリナが深々とお辞儀をし、家長である義父さまに報告をする。 

「アルベルト王子様からクラリス様へ花束が届きました」

 予想外の贈り物だったのか、驚きつつも嬉しそうに花束を受け取る義姉さまに、胸がギュッと苦しくなる。

――誕生日おめでとう。17歳のクラリスへ。 アルベルト・パライドル・タンザ――

 メッセージには17歳を強調した言葉。

 絶対に結婚を意識してるよな……これ。
 婚約者という肩書が憎らしい。

「素敵ねぇ。婚約者のアルベルト様が優しい方で母は安心だわ」

 ピンク色をメインに彩られた立派な花束を見ながら、義母さまは感嘆の声を上げた。
 ちょっと複雑な表情をしながら「えへへっ」とはにかんでいる義姉さまの姿に、僕は唇を噛む。

 僕は……僕はどうしたら……いい?

 鬱屈うっくつした気持ちのまま食事が終わり、この場から早く離れたい一心でダイニングルームを足早に後にした。


「…………かない?」

 廊下を歩きながら、考え事をしていた僕の耳に微かに声が届き、振り返ると、困惑した表情の義姉さまが立っている。

「ああ、ごめん。どうしたの? 義姉さま」
「えっとね、2人で町に行かないかなって思ったんだけど。夕方までは好きにしていいって……今夜はお父さまが仕切るから、ミカエルものんびりできるでしょ? 気晴らしにどうかな……あ、でも、寝不足だし、やっぱりやめ」
「行く!」

 義姉さまの嬉しい誘いに、鬱々うつうつしていたものがさぁっと晴れ、かぶせるように返事をしてしまう。

「えっと……寝てないんだよね?」
「平気だよ。町に行きたいんだ」
「本当? 良かった。じゃあ、準備してくるわ」

 楽しげな足取りで、部屋にむかう義姉さまの後ろ姿を見つめながら、2人で出かける事を考えると頬が緩み、寝不足なんか吹っ飛んでしまった。僕はクスッと笑い、つぶやいた。


「……デートだ」



 30分後、僕のデートは夢となり、砕け散った……
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