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誕生日の約束は……

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 それから2ヶ月たち、明日、アルフォント家にきて初めての誕生日を僕は迎える。

 生まれて初めて誕生日を意識した僕は、ワクワクすると同時に、不安にも襲われていた。

 明日、本当に皆から「おめでとう」と言ってもらえるのかな……義姉さまも、あんな小さな約束なんて覚えてないかも。

 僕は贅沢になった。

 皆と話せて、食事も一緒で、義姉さまはいつも笑いかけてくれる……それだけでも、じゅうぶんすぎるほどの幸せなのに、誕生日に「おめでとう」と言ってもらいたいなんて……僕は……なんて贅沢になったんだろう。

 ベッドの中で、眠れずモゾモゾしていると、ノックの音が聞こえた。

 不思議に思いながら、扉を開け、僕は驚く。
 もうすぐ日付が変わる時刻なのに、ニコニコと廊下に義姉さまが立っていたからだ。

「こんな遅くにどうしたの!?」
「あ、起きてた! ミカエル、少し、いい?」

 声をひそめる義姉さまにつられ、僕も小声で答える。

「いいけど……義母さまに怒られない?」 
「秘密ね!」

 僕の手をギュッと握り「こっち、こっち」と引っ張られた先には梯子はしごがあり「ここのぼるとね、屋根裏部屋なの」と説明する義姉さまは、どこか誇らしげだ。

 屋根裏部屋という呼び名から、小さい部屋を想像していたが、さすが公爵家。屋根裏でも立派な部屋だった。

 月明りしかない部屋に義姉さまは明かりを灯す。

「秘密基地っぽいでしょ?」

 得意満面の義姉さま。

 たしかに、ワクワクするけど……なんで僕をここに連れてきたんだろう?

 疑問に思っている僕の傍らで、義姉さまは時計をチラチラと何度も盗み見ていた。


 0時を知らせる鐘が小さく鳴る。


「ミカエル、誕生日おめでとう!」

 鐘がなった瞬間、にっこり微笑む義姉さまに僕は目を見開いた。

「トーマスより絶対に先に言うって、決めてたの。約束したもん! この部屋もね、見せたかったんだ!」

 勝ち誇った顔をし、僕の専属侍従と張り合うなんて……公爵令嬢とは思えない……思えないけど……

「お祝いにクッキーを持ってきたの。内緒よ? 一緒に食べましょ」

 スカートのポケットをゴソゴソ探り、紙に包まれた大きなクッキーを2枚取り出し「はい!」と1枚差し出した。

「ありがとう……」

 クッキーを受け取りながら、この熱くなった胸をどう伝えればいいのかわからず、気の利いた事ひとつ言えない自分がもどかしい。

「義姉さまの誕生日……僕も……1番にお祝いする」

 僕のつぶやきが聞こえたのか、とても嬉しそうに義姉さまは笑う。

「嬉しい! 毎年、誕生日はここで迎えよ。約束。2人だけの秘密ね」

 2人だけの秘密という甘美な言葉に赤くなりながら、僕はクッキーを口にした。

 夜中にこっそり食べるクッキーは、涙で少ししょっぱくて、この上なく幸せの味がした。

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