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翌日に……

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「ミカエル様、手紙が届いております」

 トーマスは部屋に入ってくると、招待状や書類等を机に置いた。

 勉強中だった僕はテキストの文字を追いながら、トーマスに話しかける。

「ありがとう。なんか、急ぎのものあった?」
「……特には。何通かお返事が必要な手紙もございましたが、明日でもよろしいかと……ただ1通、秘文書が届いております」
「秘文書?」

 テキストから顔を上げ、怪訝けげんな声を出す。

 秘文書なんか届く予定、あったっけ?

 秘文書は、受取人本人が触れると、文字が浮き出る魔法が施された手紙であり、他の人には差出人すらわからない。

「見せて」

 トーマスから渡された手紙を手に取り、表や裏にしてみたが、封筒には差出人は浮き出てこなかった。

 ふぅん……随分、厳重だな。

 とても質の良い上品なアイボリーの封筒が、差出人の身分が高いことを表している。

 どう考えても心当たりがなく、僕は不審な気持ちで封を開けた。

 封筒の中身は上質な真っ白い紙が1枚。
 僕が手を触れたとたん、文字が浮かび上がる。

 ――よくやった。褒美をつかわす――

 ん?

 文言の内容にも覚えがなく、そのまま差出人のサインに視線をおろす。
 そこに記された名と紋章に目を見張った。


 リディアード・プシディア・タンザ


 手に持っていた紙はサラサラと崩れていき、あっという間に僕の手から消えてしまう。

 一瞬だったけど、あれは間違いなく、現国王様のサインと紋章。

 僕は緊張でゴクンと唾を飲む。

 よくやった? シーメス家の件を収めた事?

 たしかに、あの件の始まりは国王様の一言からだった。

 褒美? なんだろ? 

「ねぇ、トーマス、この手紙と一緒になんか届いてた?」
「いえ? なにもなかったですが」
「そう……」

 わからない……まぁぁったく、わからない。褒美って何?

 いろいろ聞きたいところだけど、秘文書である以上、口外は厳禁。相手が国王様なら、尚更。

 あの一文じゃ、わかりませんよー、国王様。
 褒美を遣わすって、なにも届いてませんけどっ!

 なんだか白昼夢を見たような気分になり、モヤモヤしてしまう。

 気が削がれた僕はテキストを閉じ、ソファーにパタンと倒れ込みながら「あーあ、全然、わかんない」と独り言をつぶやいた。
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