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フィナンシェは……

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「エドワード様とザラ様? え? なんで?」

 きょとんとした義姉さまは、本当に不思議そうに首を傾げていた。

「だって、昨日も2人の為に作ったんでしょ? 新作のフィナンシェ」

 大人げなく、プイッと横をむいてしまうも、すぐに羞恥心が怒涛の如く襲ってくる。

 もぉ、何やってるの、僕は……子供かっ!

「えっと………たしかにエドワード様もザラ様も甘いお菓子は好きだけど。だって……ミカエル、フィナンシェ食べたいって言ってたじゃない」
「えっ? いつ?」
一昨日おとといの朝食で……」

 一昨日の朝食?
 えっと……一昨日の朝食は、僕は義父さまとワラントの話をしていたような……
 ああ、そうだ。軽い気持ちで、ワラントの蜂蜜入りフィナンシェ食べたいって………言った……かも。

 ……えっ? じゃあ、コレ、僕が発端なの?

「だからね、作ってみたの。蜂蜜入りフィナンシェ」
「えっと……コレは純粋に商品開発の為?」
「う、うん……まぁ、そう……かな……えっと……後でいいから、食べてみて。ミカエルの分は蜂蜜、たっぷり入れたのよ」

 うっすら赤くなった頬を両手で抑え、視線を外しながら、義姉さまにしては、珍しくモゴモゴと答える。

 僕のだけ蜂蜜たっぷり……?
 以前言ってた、数量限定商品の試作品ってこと?

「数量限定予約販売用?」
「え……? 数量……? あっ……う、ん……そう、数量限定の……そう、数量限定のやつ! そうなの、それなの! じゃあ、仕事、頑張って!!」

 僕が返事をする間もなく、義姉さまは早口で話し終わると、ささっと自室に戻ってしまった。

 残された僕は、少し不可解な義姉さまの行動に首をひねり、改めてフィナンシェを見た。

 キレイな焼き色がついた、見目よい形のフィナンシェが芳醇なバターの香りを漂わせている。僕は誘惑に負け、行儀が悪いのは承知の上で、フィナンシェをつまみ、一口かじる。

「あ……おいし………」

 濃厚なバターのコクが、たっぷり入れたという蜂蜜の上品な甘さと合わさり、極上のお菓子へと押し上げる。

 これは上流階級で流行るだろうな。

 それに………

 このフィナンシェは誰の為に作ったという事でなく、商品開発の為で、あの2人もって事だよね?

 嫉妬心が収まった僕は自然と笑いがこみ上げ、ニンマリしてしまう。

 手に持っていた食べかけのフィナンシェを口に入れ、義姉さまの手作りをゆっくり堪能する。
 残りは大切に食べようと袋にしまい、僕は足早に部屋にむかった。
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