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フィナンシェは……

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 まだまだ、やらなくてはならない事は山のようにあるけれど、とりあえず、ファンレーを無事ラウザー伯爵の元に送った事に、僕は安堵の吐息をついた。

 ラウザー家は騎士の家門。

 これで、シーメス前男爵がファンレーに近づく事は難しくなった。

 それにしても、当主を継承後もファンレーを操り、好き勝手するつもりだったとは。呆れて物が言えない。

 ラウザー家がファンレーの後ろ盾についたことによって、目論見が外れ、相当、悔しがっているらしいけどさ。少しくらい、反省して欲しいよ……

 昨日得た、シーメス前男爵の情報を思い出しながら歩いていると、袖をクイッと引っ張られ、足を止める。

「ね、ねぇ、ミカエル……今日も忙しいんでしょ?」

 振り返り、おずおずと聞く義姉さまの質問に、今日の仕事量を頭に浮かべた。

「うーん……ちょっと忙しいかな。今日、なにか、あったっけ?」

 ここ数日は本当に忙しくて……シーメス家の事がなければ、もう少し余裕もあったのだけど。

「身体、壊さないでね……これ、仕事の合間にでも食べて」

 心配そうな顔をした義姉さまは、僕に小袋を差し出す。袋を覗くとフィナンシェが3つ、かわいく並んでいた。

「フィナンシェ? あ、ありがとう」

 これか! エドワードとザラに作ってあげたフィナンシェはっ!

 ……僕もでもらったよ……ファンレー……

 嫉妬心が再燃し、僕は黙りこくってしまった。
 義姉さまは、眉尻を下げ、更に心配そうに上目遣いで僕を見る。

「え……っと、いらない……かな……」
「そんな事ないよ! 嬉しい。フィナンシェ、仕事中、片手で食べられるし、助かるよ! ありがとう…………えっとさ、エドワード様とザラ様って、フィナンシェが好きなんだね」

 ついモヤモヤした胸中を吐露してしまう。


 ………もう返り討ちにあってもいい。
 いつか、フィナンシェも口に詰め込んでやるっ!
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