上 下
155 / 298
見送りに……

3

しおりを挟む

「すいーとぽてと? それなに? お菓子なの?」

 ポテト……というからには食べ物なんだよね? きっと。
 さつまいもで甘いおいもを作る?

 意味不明な名前にいくら考えても答えが出ず、僕は義姉さまに質問をする。

「美味しいのよ! サツマイモをね、茹でて、潰して、混ぜて……私、大好きなの! じゃあ、最初にミカエルとファンレーに作ってあげるわね」
「うん。楽しみにしてる」

 意気揚々と返ってきた言葉に、僕はニコニコと返事をした。

 茹でて、潰して、混ぜて……うん、さっぱりわからん。

『すいーとぽてと』が何たるかは、全く説明されてないし、想像もつかないけど、義姉さまが大好きだという事だけは伝わった。

 さつまいもの苗をファンレーに贈って良かったな。あんなに義姉さまが喜んでいるんだもん。
 後は領民にしっかり育ててもらわなきゃね。

「ねぇ、その『すいーとぽてと』ってものは、どこで食べたの?」

 僕の素朴な疑問に、義姉さまは懐かしそうな顔をして、ふふっと微笑む。

「ああ……うん、ちょっと、昔にねー。あ、そうだ! 天……エドワード様もザラ様もお好きだから、作って持っていってあげよっ」

 うっ……

 久方ぶりに聞いた憎き名前に顔が引きつり、声が詰まる。

 あの2人、相変わらず義姉さまと連絡取り合っているのか……

「へ、へー、エドワード様やザラ様もお好きなんだー、その『すいーとぽてと』ってやつ。へー」

 エドワードやザラの好きなものなんて、僕はどうでもいいんだけどさ…………どこで食べたの! 3人は『すいーとぽてと』ってやつを! どこで食べたのっ!

「そうなの! 雪兄……ザラ様もああ見えて、甘いものに目がないのよ。昨日もね、新作のフィナンシェを作って持っていったんだけど、いっぱい食べてくれたの」

 義姉さまは、その時の様子を思い出したのか、おかしそうにクスクス笑っている。けど、僕の胸中はそれどころではない。

 昨日!? フィナンシェ!? 持っていった!?
 ここしばらく、シーメス家の件で留守にすることも多かったから、気がつかなかった……

「ふふふっ、エドワード様はね、もういくつでも食べられるんですって。スイートポテト!」
「へー、トテモ、オイシインダネ、スイートポテトッテヤツ。タノシミダナー」

 嫉妬で渦巻いている心を平静に保つため、僕は遠くを眺めた。
 眺め……
 眺……

 ……
 ……チッ

 そんなに好きなら、あいつらの口いっぱいに『すいーとぽてと』ってやつを詰め込んでやろうかな……




 …………間違いなく、返り討ちにあうけど。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...