上 下
153 / 298
見送りに……

1

しおりを挟む

 雲一つない晴れ渡る空が広がり、暑くも寒くもない気持ちのいい朝。

 外へ出た僕は、爽やかな空気の心地良さに思いっきり伸びをする。
「お待たせ!」と遅れてきた義姉さまと他愛もない話をしながら、門に向かうと、荷物を馬車に積み込んでいるファンレーがいた。

 ファンレーは僕達の姿に気がつき、嬉しそうに顔を綻ばせる。

「兄さま、お姉さま、いろいろありがとうございました」

 5日間ほどアルフォント家に滞在していたファンレーは、当主教育を快諾してくれたラウザー家へ、今日から行くことになった。

 この件に関しては、ファンレーの父親は納得してはいないものの、アルフォント家の口利きである以上、黙るしかなく、不承不承ふしょうぶしょう了承したそうだ。

「ファンレー……また、会いに来てね」

 義姉さまは寂しそうにファンレーの頭を撫でまくる。

 いや、義姉さま、すぐ会えると思うよ?
 いろいろ話し合う事もあるし、今後、アルフォント家の為に貿易業務も担ってもらうし。

「これね、ラウザー家でお腹が空いたら食べるのよ?」

 義姉さまは袋いっぱいに詰め込んだ手作りお菓子をファンレーの両手に持たせる。

 いや、義姉さま、仮にも伯爵家に行くんだから、食事くらい出るってば!
 そんなにいっぱいの手作りお菓子…………ズルイ……

「寂しくなったら、連絡するのよ?」

 涙ながらにファンレーに語りかける。

 …………だ、か、ら!
 ラウザー家のお屋敷は、すぐそこでしょ!!

 しかも、世話好きのラウザー伯爵の張り切り方が尋常じゃない。アルフォント家から直々の頼みであるからなおの事。
 寂しいどころか、準備万端でファンレーを今か今かと待ってるよ。

「いつまでも、ファンレーのお姉ちゃんだからね!」

 感極まってファンレーを抱きしめようとする義姉さまを見て、僕は慌てて間に入り、邪魔をする。

 ……もう! 本当に義姉さまはファンレーに甘いんだからっ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

没落令嬢は、おじさん魔道士を尽くスルーする

みん
恋愛
とある国の辺境地にある修道院で育った“ニア”は、元伯爵令嬢だ。この国では、平民の殆どは魔力無しで、魔力持ちの殆どが貴族。その貴族でも魔力持ちは少ない。色んな事情から、魔力があると言う理由で、15歳の頃から働かされていた。ただ言われるがままに働くだけの毎日。 そんな日々を過ごしていたある日、新しい魔力持ちの……“おじさん魔道士”がやって来た。 ❋相変わらずのゆるふわ設定なので、軽く読んでいただければ幸いです。 ❋気を付けてはいますが、どうしても誤字脱字を出してしまいます。すみません。 ❋他視点による話もあります。 ❋基本は、1日1話の更新になります。

救助隊との色恋はご自由に。

すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。 ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。 助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・ 香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」 ほたる(消防関係の人だ・・・!) 『消防署員』には苦い思い出がある。 できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。 しまいには・・・ 「ほたるから手を引け・・!」 「あきらめない!」 「俺とヨリを戻してくれ・・!」 「・・・・好きだ。」 「俺のものになれよ。」 みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。 『俺がいるから大丈夫』 そう言ってくれるのは誰? 私はもう・・・重荷になりたくない・・・! ※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。 すずなり。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...