1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃

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異母弟が……

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「で、どうしたの? って事情は知ってるけど」

 仕事の目処めどを付けた僕は、ファンレーの前に座り、紅茶を飲んだ。

「……兄さま……あの、僕……どう……したら……」

 今まで、誰にも相談できなかったのだろう。不安を口にした途端、僕と同じアイスブルーの瞳から涙がこぼれ、全く口をつけてない紅茶の中へポトリと落ちる。

 涙が止まらなくなったのか、更にグズグズ泣き始め、僕はハンカチを差し出し、頭をぽんぽんと軽く叩く。

「まぁ、紅茶を飲みなよ」

 予備のカップに紅茶を注ぎ、ファンレーに手渡すとコクンと頷いた。

「美味し……」
「うん、美味しいんだよ、この紅茶。いつもは義姉さまにしか出さないんだけど。特別だよ?」

 僕が笑いながら話すのにつられ、ファンレーもクスクス笑い、少し表情が明るくなる。

「でさ、ファンレーはシーメス男爵……ああ、前のだけど……から、当主教育、領地経営とか受けてたの?」
「……なにも……」
「なにも?」
「なにも……教えて欲しいと頼んだんだけど……教えてくれなくて……聞きにいっても『お前じゃなくミカエルだったらAクラス魔道士なのに……』って、僕の話を聞いてくれなかったんだ」

 ポツリポツリ自信なく話すファンレーを見て、前シーメス男爵に今までとは違う怒りが湧いてきた。

 魔道士ランクにこだわって、ファンレーにも冷たかったのか……あの人は。

「本とか読んで勉強したんだけど……今の状況は僕じゃどうしていいのかわからなくて……」

 そうだろうな。
 当主教育も領地経営もそれぞれの家で受け継がれていくもの。
 本の知識は一般論にすぎないし。

「そう……ファンレーはどうしたい?」
「……できれば……アルフォント公爵様に領地を……」

 おずおずと涙目で答えるファンレーから少し視線を外し、思案する。

 今のファンレーにはそれしか道はない。

 目の前で助けを求めている異母弟をなんとかしてあげたい……けど、ファンレーを助けることは、アルフォント家に迷惑を掛けることになる。

 どう決断するのが正解なのか……何度考えても平行線になってしまうこの状況に思い迷い、天を仰いだ。
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