上 下
131 / 298
蜂蜜を……

1

しおりを挟む

 自室に戻ると、ハミルトン家から帰ってきたトーマスが頭を下げ、僕を迎えてくれる。

 義姉さまの件……無事に終わったみたいだな。
 僕がこんなに疲労困憊なのに、義姉さまと楽しくお茶していたなんて、バードめ、許すまじ。

「お帰りなさいませ。ミカエル様」
「ただいま。トーマスもお疲れ様。早速だけど報告を」

 部屋の奥にある仕事用のデスクに向かい、書類を眺めながら椅子に座る。

「まず、蜂蜜ですが、最高品質のものだと思われます。クラリス様も気に入られたようです。しばらくは少量しか仕入れられないそうですが、いずれは……という感じです。ただ、問題点もありまして、質が良すぎるものゆえ、かなり値が張りますので、ターゲットが絞られます」

 試食してきた蜂蜜について、スラスラと的確に報告するトーマスの言葉を聞きながら、蜂蜜の詳細が書かれた書類に確認のサインを入れる。

「なるほど……わかった。蜂蜜はただでさえ希少だし、高値がつくのはしょうがないかな。ターゲットは上流階級……今の販路でも流せそう……いや、すぐ大量に用意できないなら、ニッチなところからじわじわ売り出すのもありだね。少量なら少量の売り方がある。蜂蜜の価値を更に高めよう。新しい販路を探してみようか」
「かしこまりました……調べておきます」
「トーマス、義姉さまの事もありがとう。今日は疲れたでしょう? さがっていいよ」

 今日はバードから義姉さまを守る。という普段とは違う仕事をこなし、疲れたんじゃないかな。
 トーマスのことだから、しっかり守ってくれたと思うし。

「あの……」
「ん? なに?」

 珍しく歯切れの悪い口調で報告を続けるトーマスに胸の奥がザワッと騒ぐ。

「ええっとですね……クラリス様ですが……」
「えっ? 滞りなく終わったんだよね?」
「それが……」

 それが? えっ? ちょっと待って。
 トーマスがいたから、何事もなかったでしょ?
 えっ? えっ? えっ?

 まさか……まさかバードあいつ、義姉さまに手を出したとか!?
しおりを挟む

処理中です...