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男爵が……
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しおりを挟む「シーメス家の領地を我が家が買い取る事は可能だが……」
「……そう……ですね」
正直、あんな領地はいらない。
たぶん、義父さまも同意見だと思う。
答えは出ている。
そう……答えは出ているんだ。
「私としてはどちらでもいい。ミカエルが決めなさい。どんな決断をしても反対しないよ」
義父さまはにこやかな笑顔を僕に見せた。
この件に関して全権を託すと言われているようなもので、重大な決断を任されていることに僕の身が引き締まる。
最善の選択はわかっている……一択しかない。
……
……
……しかないのに、すぐに答えを出すのを躊躇してしまう自分がいる。
僕は自分の迷う心に戸惑い、つい、話題を変えてしまった。
「今日、国王様がシーメス家の話をするのを知っていたんですか……? なんで、国王様は僕との密談の時じゃなく、義父さまの前で話題にしたんですか?」
なんとなく不思議に思っていた事を口にしてみると、義父さまは、ああ……と小声で漏らし、クスクス笑い出す。
「ん? まあね。五分五分かな、くらいは思っていたよ。私に言っても埒が明かないから、君という強硬手段に出るだろうなぁとは予測していたけど。私の前で話題にしたのは、結局アルフォント家の力が必要だからという事と……説明を私に丸投げする為だ。あの、腹黒たぬき」
「腹黒……たぬ……き?」
「国王様は昔からそうなんだ。要領がいいっていうか、調子がいいっていうか……現にキッカケだけ作って説明も何もしなかっただろ?」
たしかに……僕もあの場に義父さまがいたから、義父さまに聞いてしまった。国王様に聞くなんて、畏れ多いし。
「私もいずれは伝えるつもりではいたからいいのだが。本当にちゃっかりしてるんだ、国王は。まあ、国王の事はいい。後で嫌味の一つでも言っておくから。ミカエル、決断は後日でもいいから、今日はゆっくり寝なさい。疲れただろう?」
僕の迷いを敏感に感じ取ってくれたのか、義父さまは普段と変わらぬ優しい笑顔で労いの言葉を掛けてくれた。
「……はい」
「ははっ、ミカエルが疲れたなんて素直に言うのは珍しいな。まぁ、ゆっくりおやすみ」
「ありがとうございます。失礼します」
執務室を出ると、緊張して強張っていた身体の力が一気に抜け、疲労感が全身を襲う。
立っているのも辛く感じてしまい、少しだけ……と壁に寄りかかり、疲れた身体を休めると、僕は目をつむった。
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