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男爵が……

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 シーメス家を出た時、まだ3歳だったファンレー。
 彼は何も知らず、何もわからず、周りの大人から僕には近づくなと言われていたと聞いた。

 部屋の窓から家族3人が楽しそうに遊びに行くのをただ眺めていた僕は、同じ屋敷に住んでいた異母弟おとうとといえど顔すらも覚えていない。

 まさか、その彼の名を9年経った今、聞くことになるとは。

「国王様は12歳で当主になってしまうファンレー君を案じておられる」

 義父さまの言葉に、僕はずっと心の中でつかえていた何かがストンと落ちたような気がし、国王様の意図をやっと理解した。

 ああ、そうか……今日、僕と密談したのはそういうわけか。

 あの領地の購入には誰も手を挙げないだろう。
 何事もなければ、誰もが敬遠する案件……本当に何事もなければ。

 一方、アルフォント家はシーメス家の領地を購入しても、びくともしない地位と財力と経験がある。
 そして、シーメス家を助けてもおかしくない事情がある。

 僕、だ。

 だから国王様はあの場でシーメス家のゴタゴタを口にした。
 突然当主になったファンレー・シーメス……ひいてはシーメス家の領民の為に。

 今日、国王様がシーメス家の名を出したのは、うっかりではない。

 シーメス家の話題を僕の耳に入れ、手遅れにならない内にアルフォント家自ら動くように、仕向けたのだ。

 ああ……

 僕は執務室の窓から見える青い空を眺め、小さく溜息をつく。

 国王様にしてやられた感、満載だ。
 
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