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男爵が……

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 その後、国王様の前で込み入った話はできず(言い出したのは国王様だけど)、片付けなどで慌ただしくなり、そのままうやむやになってしまった。

 屋敷に帰る馬車の中で「後で執務室にきなさい」と義父さまに言われ、今、僕は執務室の前に立ち、深呼吸をしている。

 意を決し、扉を叩き「失礼します」と入室すると、奥の机で何かの資料を見ていた義父さまが目に入り、深く頭を下げた。

「先程はすみません。アルフォント家次期当主ともある僕があんな事で狼狽ろうばいするなんて……失態です」
「まぁ、仕方がない。急な話だったしね。ソファーに座りなさい」

 促されるまま座り、義父さまの仕事が終わるのを待ちながら僕は猛省していた。

 どんな内容であれ、国王様の目の前で動揺してカップを倒すなんて、最悪。
 ほんっとダメだろ。しっかりしろ。

 それにしても……

 忙しそうに書類に目を通している義父さまを見て、この後、説明されるであろう内容について考える。

 詐欺ってどういうこと?
 いったい、シーメス家で何が起こっている?

「待たせたね」

 義父さまの声に顔を上げ「いえ……」と短く答えると、義父さまは僕の前に座った。

「まず、シーメス男爵の詐欺罪だが、示談が成立したそうだ」
「あの……シーメス男爵は……何をしたんでしょうか?」
「ああ、そうだね、そこから話さないとだね」

 義父さまは紅茶を一口飲むと、厳しい顔つきになり、淡々と話し始めた。

 30分程で話を聞き終えた僕は、あまりの情けなさに涙がでそうになる。

 あろうことか賭博に手を出し、負けては躍起になり……を繰り返す。
 あとはお決まりの転落コース一直線で。
 借金まみれになった男爵は偽物の宝石をドラッキド子爵夫人に売りつけ、捕まった……というのが事の顛末らしい。

 あまりにもお粗末で馬鹿らしくて、頭痛がしてきた。


 本当に……何をやっているんだ、あの人は。
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