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クラリスの心配 〜クラリス視点〜
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「……がうの……」
「えっ?」
「違うの……お菓子じゃないの。ごめんなさい。お菓子の方が良かったよね」
ミカエルは不思議そうな顔をして、袋を開け、ハンカチを取り出し、まじまじと刺繍を見ていた。
ひゃーー、恥ずかしい。
昨夜の私、なに、この下手っぴな刺繍でご満悦に浸ってたんだ!
いくら夜中でテンションがおかしかったとしても、ニマニマしていた自分に言いたい。
やっぱり、へタックソだぞっと。
「これ……義姉さまが?」
「あのね、あのね、頑張ったんだけど……なかなかうまくできなくて、昨日の夜中、やっと完成したの……でね、下手っぴすぎて、恥ずかしいんだけど……」
ミカエルは驚いた顔をして、しばらくハンカチを見つめていたが、顔を上げ、とても、本当にとても嬉しそうに穏やかな笑顔を見せた。
「……ありがとう……大事にする」
ああ、良かった。
ミカエルが笑ってくれた、嬉しい。
「へへっ、私だって、たまには令嬢らしいことするのよ!」
「たまには、だけどね」
「まぁ、失礼ね!」
軽口を叩きあうのが楽しくて「ふふっ」と笑うと、ミカエルも私に微笑みを返してくれ、私は心底安心する。
「じゃあ、部屋に戻るね」
立ち上がり、部屋を出ようと扉の取っ手に触れた時、ふいにお父さまとミカエルの会話が頭の中で蘇る。
「あ、あのね、ミカエル……婚約、するの?」
「えっ? しないよ」
「そう……今日はゆっくり休んでね」
ミカエルの部屋を出て、壁に寄り掛かり、ふぅと息を吐きながら「そっか……まだ、婚約しないのね……」口の中でつぶやくと、勝手に顔がにんまりしてしまう。
ミカエルに婚約者ができたら、お義姉ちゃんはいらなくなる……いずれ、その日が来るのはわかってるけど、まだ、大丈夫。一緒にいられる。
私はついつい鼻歌を口ずさんで、スキップしていたところを専属侍女のセリナに見られてしまい「公爵令嬢ともあろう方が……まぁ、いつもの事ですが」と部屋でお小言を食らう羽目になってしまった。
「えっ?」
「違うの……お菓子じゃないの。ごめんなさい。お菓子の方が良かったよね」
ミカエルは不思議そうな顔をして、袋を開け、ハンカチを取り出し、まじまじと刺繍を見ていた。
ひゃーー、恥ずかしい。
昨夜の私、なに、この下手っぴな刺繍でご満悦に浸ってたんだ!
いくら夜中でテンションがおかしかったとしても、ニマニマしていた自分に言いたい。
やっぱり、へタックソだぞっと。
「これ……義姉さまが?」
「あのね、あのね、頑張ったんだけど……なかなかうまくできなくて、昨日の夜中、やっと完成したの……でね、下手っぴすぎて、恥ずかしいんだけど……」
ミカエルは驚いた顔をして、しばらくハンカチを見つめていたが、顔を上げ、とても、本当にとても嬉しそうに穏やかな笑顔を見せた。
「……ありがとう……大事にする」
ああ、良かった。
ミカエルが笑ってくれた、嬉しい。
「へへっ、私だって、たまには令嬢らしいことするのよ!」
「たまには、だけどね」
「まぁ、失礼ね!」
軽口を叩きあうのが楽しくて「ふふっ」と笑うと、ミカエルも私に微笑みを返してくれ、私は心底安心する。
「じゃあ、部屋に戻るね」
立ち上がり、部屋を出ようと扉の取っ手に触れた時、ふいにお父さまとミカエルの会話が頭の中で蘇る。
「あ、あのね、ミカエル……婚約、するの?」
「えっ? しないよ」
「そう……今日はゆっくり休んでね」
ミカエルの部屋を出て、壁に寄り掛かり、ふぅと息を吐きながら「そっか……まだ、婚約しないのね……」口の中でつぶやくと、勝手に顔がにんまりしてしまう。
ミカエルに婚約者ができたら、お義姉ちゃんはいらなくなる……いずれ、その日が来るのはわかってるけど、まだ、大丈夫。一緒にいられる。
私はついつい鼻歌を口ずさんで、スキップしていたところを専属侍女のセリナに見られてしまい「公爵令嬢ともあろう方が……まぁ、いつもの事ですが」と部屋でお小言を食らう羽目になってしまった。
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