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別宅にて……

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 僕は湖に映る星を眺めていた。

 すぐそこにあり、手を伸ばせば星は掴めそうなのに、湖に手を入れた途端、星は……

 崩れる。

 それは、まるで僕と義姉さまの……

「ここにいたのか」

 後ろからジェスターの声が聞こえ、暗い思考に陥りそうだった僕は現実に戻るも、振り返らずに湖面を見続けた。

 ジェスターは隣に腰を下ろし、夜空を見上げる。

「綺麗だな」
「うん……なんか、僕に用事でもあった?」

 怒りの気持ちは多少収まったものの、やはり、今、ジェスターと話すと心がざわつく。

「ああ、アルフォント家に依頼してあった書類、ちょっと早めに欲しいんだが」
「あれね。もう出来てるから。明日にでも渡せるよ」
「さすが、仕事が早いな。じゃあ、明日、受け取りに行く」
「わかった……仕事、終わったの?」
「一段落ついた」

 それから、僕達は黙って湖を見つめていた。

「ジェスターはさ、なんで、義姉さまなの?」

 暫し、静寂に支配された空間で僕は湖の星を眺めながら、ボソリと口に出した。
 ジェスターは同じように湖に視線をむけたまま答える。

「光だから」

 言葉少なに返ってきた答えだったけど、僕はなんとなく理解した。

 シーメス家を連れ出してくれた時も、魔法が発現した時も、シーメス男爵に連れて行かれそうになった時も……僕にとって一筋の光だった。

 きっと、ジェスターも同じように感じているのだろう。
 でなくちゃ、あんなしつこく、義姉さまを好きでいられるわけがない。

「そう……だとしても、僕は渡さないよ」
「それは、こっちの台詞だ」

 だよね……でも、目下の問題はアルベルトと婚約している事。
 それを、まず何とかしないと。
 
 婚約者…………か。
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