1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃

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別宅にて……

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 転びそうな義姉さまに僕は手を伸ばしたが、すぐ横にいたジェスターが義姉さまの腕を掴む。
 義姉さまは勢いよく腕を引かれたからか、トスンとジェスターの胸に顔をうずめ、ジェスターは義姉さまを……


 抱きしめた。


 僕の胸がピキピキッと音を立てて、ヒビが入ったような感覚に襲われる。

 義姉さまの耳元に顔を寄せ「大丈夫か?」と囁いているジェスターに、全身の血が沸騰したのかと思うほどの怒りで我を忘れ、義姉さまを抱きしめているジェスターの腕をガシッと掴んだ。

「離せよ」

 自分でも驚くほど、地を這うような低い声。
 睨みつけ、掴んだ手に力を入れるも、ジェスターは動じることなく、チラリと僕を横目で見ただけだった。

 ほんの数秒の出来事。
 
 僕とジェスターのやり取りの間に、隣にいたはずのローザがいつの間にかもう片方のジェスターの手をつねり、バシンッと大きな音を立てて叩いていた。

 相当強く叩かれたのか、ジェスターの手はみるみる赤みが帯びてきている。だが、そんな事知ったことかと、ローザはにっこり笑いかけた。

「ジェスター様、もう、大丈夫ですわ。さ、クラリス様、私にお掴まりください」

 ジェスターは肩をすくめ、腕を緩める。
 抱きしめられていて状況をよく把握できていなかったであろう義姉さまは、きょとんとしたままジェスターの腕から離れ、ペコリと頭を下げた。

「ジェスター様、ありがとうございました」
「いや……」
「さぁ、行きましょ! クラリス様」

 先程まで、おっかなびっくりに歩いていたとは思えないほど、スタスタとローザとリーズルが義姉さまを引っ張っていく。

 黙って愛おしそうに見ているジェスター。
 その姿に怒りが再燃してしまう僕。

「ねえ、なにしてんのさ」
「転びそうだったから、助けただけだ」

 ジェスターはいつもと変わらぬ、澄ました顔で淡々と答えた。

 その通りだけど。
 たぶん、これが他の女性でもジェスターは助けただろう。僕だって目の前で転びそうな女性は助ける。

 けれど、抱きしめはしない。

「僕達も戻るぞ」

 ジェスターに促され、歩き出したが、何事もなかったように、歩いているジェスターの後ろ姿を凝視しながら、僕はやり場のない憤りに苦しんでいた。
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