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ダンスパートナーは……

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「事情はわかりました……えっと……その女の子が……」

 と、とにかくさ、その時の女の子は義姉さまだったって事だよね……?

 僕が話をまとめようと口を挟むと、リーズル嬢は憮然とした表情になり、不満たらたらの目をむけ、低い声を出す。

「わかってません。話はこれからですわ」

 えっ? まだ終わらないの?
 そんなに睨まれると……こ、怖いんだけど……
 見目麗しく、上品なご令嬢はどこいったの!?

「それからですね~」

 僕が引きつった顔をしていても、お構いなしに話は続いた。

 どうも最後まで話さないと気がすまないらしい……
 はぁぁ……嫌な予感が胸の中で広がっていくんだけど。

「追っ払ってくれた後も、泣きじゃくっていた私を心配してくれ、ポケットからハンカチとチョコレートを出して、にっこり笑ってくれたのですわ! で、なんておっしゃったと思います?」
「さ、さあ……?」

 リーズル嬢がせきを切ったように話しているのを、うつろな気持ちで聞いていた僕が突然の質問にたじろいでいると、リーズル嬢は満面の笑みで僕を見る。

「笑顔の方がかわいいわよ」
「は?」
「ですから、笑顔の方がかわいいわよって、おっしゃったのですわ!」

 その時のことを思い出したのか、リーズル嬢は顔を赤くし、自分の言葉に「きゃー」と照れまくる。

 は?
 なに……それ……?

 僕はあまりの台詞に開いた口が塞がらない。

「屋敷に帰って、調べましたら、我が領地に視察にいらっしゃっていたアルフォント公爵家のご令嬢との事!」

 ……なんでさ、義姉さまは1人で外を歩き回ってたのさ……仮にも公爵令嬢なのに。

 いや、もうそれは愚問。

 義姉さまの事だから、見知らぬ土地で大人しくできなかったのはわかる……わかるけれど!

 侍女もつけずにフラフラするだけじゃ、飽き足らず……

 なに令嬢を口説き落としているのさっっ!

 まだ1人でキャッキャッ言っているリーズル嬢を見つめ、嫌な予感を払拭するがごとく、何度も頷き、自問自答を繰り返した。

 うん、これで完璧に事情はわかった。事情はね。
 その時のお礼が言いたい……とか……だよね? 
 そうだよね?
 そうだよね?
 そうに決まっている。

「クラリス様は私の憧れなんです! あんな素敵なご令嬢、そんじゃそこらの殿方とはお似合いになりません。言い寄る殿方がおりましたら、絶対に、ええ、絶対に阻止してみせますわ!」

 声高らかに宣言をするリーズル嬢の言葉は、僕の嫌な想像のななめ上をいく台詞で、僕の心を失意の色に染め上げた。


 さっきまで、誰がパートナーでも一緒って思っていたけど……訂正。

 僕の恋の障害になりそうな令嬢がパートナーでは非常に……ひじょーーーに困るんだけど。
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