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ダンスパートナーは……

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 僕とリーズル嬢は講堂に並べられている椅子に座り、改めて、挨拶をし合った。

「えっと……はじめまして……リーズル嬢。クロムス男爵家のご令嬢ですね?」
「はい、よろしくお願いします。ミカエル様」

 公爵家を継ぐ為に主だった貴族は頭に叩き込んである。

 クロムス男爵……たしか、辺境の地を所領している家門で、我がアルフォント家と遠いえんもあったはず。

「リーズル嬢はお一人でこちらに?」
「はい、伯母様の屋敷でお世話になっております」
「そこまでして……?」
「はい! どうしてもスピネル学園に入学したくて」

 意気揚々と答えるリーズル嬢を見て、不思議に思う。

 王立スピネル学園は、国王様の立派な臣下を育てるべく、創立された学園。
 王都の貴族の令息、令嬢は、よほどのことがない限り、この学園に入学するけど、わざわざ遠くから入学するのは珍しい。

「私、ミカエル様の事は存じておりましたわ」

 僕の事を知っていた?
 ふぅん……アルフォント家次期当主として、有名だからね。

 彼女はキラキラした瞳で僕を見つめ、少し興奮しているのか、頬に赤みが差している。

 僕は満面の笑み浮かべた。

「こんな見目麗しいご令嬢の記憶に残るなんて、光栄ですね」

 ああ、社交辞令って面倒くさいな。

 彼女は更に興奮したように声を高める。

「ああ、ミカエル様とパートナーなんて、なんて運がいいのかしら!」
「美しいご令嬢とペアが組むことができ、私の方こそ神に感謝です」

 あああ……ホント、嫌。
 貴族社会では社交辞令が必須とはいえ、何言っちゃってるの? 僕は。
 ご令嬢達も社交辞令を本気にしないというのが暗黙のルールだけど……本当になんだろうね? この美辞麗句びじれいくの応酬は。

 おかげで、本命のご令嬢にも社交辞令と思われ、恋がなかなか進まないという弊害もあり……この風習のとばっちりを1番受けているのは、義姉さまに何を言っても「さっすが社交界の花形、お世辞も完璧ですわ!」と言われ続けているジェスターだけどさ。

 まぁ、そんなわけで、僕がリーズル嬢に本心ではない甘い言葉を囁いても、お互い本気にしない。貴族社会のお約束ってやつで……
 リーズル嬢も本気には……本気に……は……あれ?

 リーズル嬢はポッと顔を赤らめ、うつむき……

 え? ちょっと……え?
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