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ダンスパートナーは……
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しおりを挟む「12番」
学園の講堂に響く先生の声。
僕は右手に握りしめていた紙に書いてある「12」の数字を確認する。
「義姉さま、僕、呼ばれたから、行ってくるね」
「はーい、素敵なご令嬢との出会いがあるといいわね」
今朝、抱きしめようとしてしまった僕は、屈託なく笑う義姉さまの顔が直視できず、ふいっと横をむいた。
「そんな出会い、いらないよ……」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない……」
「ほら、早くいけよ!」
ジェスターが義姉さまの横で「いけいけ」と手をヒラヒラ振り、急かす。
もう、義姉さまと2人になりたいからって……
ジェスターだって、すぐに呼ばれるんだからね!
「じゃあ……」
僕は講堂の壇上にむかった。
今、僕達は、1年間、一緒に授業を受けるダンスのパートナーを決めている。
ペア決めはくじ引き。
1年間のパートナーがくじ引きって……どうなんだろ? とも思うけど、もう、そんな事どうでもいいし、興味がない。
義姉さまじゃなければ、僕にとっては誰がパートナーになっても一緒だから。
義姉さまは、婚約者のアルベルトとパートナーが最初から決まっている。
くじ引きで、わくわくした気分を味わいたかったのか、さっきから「つまんないなぁ」と残念そうにつぶやいていた。
アルベルトは公務で、今はこの場にはいないけれど、もし、ここで勝ち誇ったような顔をされたら、嫉妬心が心中で荒れ狂っていたと思う。
婚約者の立場が羨ましくて仕方がない。
アルベルト。
いつか、その立場から引きずり下ろしてやるから。
みてろよ。
僕が壇上に上がると、噂のアルフォント家次期当主だからか、ざわめきが起こった。
血縁のない次期当主がどんな奴か……というところかな。
好奇の目には、もう慣れてるけどね。
そして、同じ12番の紙を握りしめた令嬢が壇上に上がり、お互い挨拶を交わす。
印象的なのはサラサラの金髪。
清楚な微笑みを浮かべ「よろしくお願いいたします」とお辞儀をする所作も丁寧で上品なご令嬢。
僕は彼女を前に少し驚く。
へぇ……美しいご令嬢だな。
美しいのは事実だから、素直に感心はするけど、そこに何一つ感情はのらない。
どんなに美しく、綺麗なご令嬢でも僕の心は動かない。
僕はにっこり彼女に微笑み、手の甲へキスをした。
「1年間、よろしくお願いします。ミカエル・アルフォントです」
手の甲へのキスは不本意だけど、仕方がない。
社交の挨拶みたいなものだから。
ご令嬢に恥をかかせる訳にもいかないし。そんな事をすれば、後で義姉さまに怒られちゃうし…………けど、不本意だ。
「リーズル・クロムスですわ」
彼女もドレスを軽くつまみ、会釈をする。
自己紹介後、僕は彼女をエスコートし、壇上を降りた。
「13番」
次の番号を呼ぶ先生の声が響き渡り、ざわついていた講堂内は静かになった。
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