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入学式に……

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「ジェスター様だけミカエルとアルベルト様と同じクラスになれなくて残念ね」

 次の日。
 僕と義姉さまはスピネル学園にむかう馬車の中にいた。

「ジェスターは義姉さまと同じクラスだし、残念なんかじゃないよ。僕が義姉さまと同じクラスになれなくて、残念だ」

 僕は義姉さまに微笑みかけた後、窓から流れていく景色を追いかける。

 クラス発表の事は考えても、どうにかなる問題じゃない……まぁ……落ち込むけどさ。エドワードやザラの圧力プレッシャーは、初対面から続いているわけで……婚約は……ああ、学園入学前に破棄させたかったなぁ……

「でも、アルベルト様と同じクラスで良かったじゃない?」
「いや……別に……」

 明るい声で僕に問いかける義姉さまに、つい本音がポロリと出てしまった。

 義姉さまは、うーむと声を漏らすと、何を勘違いしているのか「ジェスター様も親友と同じクラスになれなかった事、残念に思っていると思うわ」と自信ありげな口調で話す。

 僕は義姉さまに気づかれないよう、小さく溜息をついた。

 まぁ、たぶん義姉さまの頭の中は、こうだ。

 僕のテンションがなんだか低い。
 きっと、親友である僕達3人が一緒のクラスじゃないのが残念なのだろう。ここは義姉あねとして、慰めねば!
 
 十中八九、間違いないと思う。
 相変わらず、義姉さまの思考はちょっとずれてる。

 僕はクスッと笑いながら、ボソボソッと義姉さまに返答する。

「絶対、あいつが1番喜んでるよ……」
「ん? 何か言った?」

 声が小さすぎたのか、義姉さまには届かなかったようだ。

「義姉さま、あまりジェスターとばかり一緒にいたらダメだよ」
「え? なんで?」
「義姉さまがそばにいると、さ……ほら……ジェスターも男……だし」

 本当はこんな事言って、ジェスターを男だと認識されたくはないんだけど、あいつは策士だし、僕の目の届かないところで、義姉さまがコロッとのせられるんじゃないかと思うと……気が気でない。

 義姉さまはハッとした表情をし、少し黙り込むと、僕に尊敬の眼差しをむけた。

「もう……ミカエルったら、なんて優しいの。親友のジェスター様の恋まで心配するなんて。そうよね。私がそばにいたら、ジェスター様が好きなご令嬢にアピールしづらいものね。ジェスター様の恋を邪魔しないようにするわ」

 あれ……?
 なんか、ちょっと思っていた反応と違うけど……ま、いいか。

「うん。よろしくね。僕もジェスターの親友として、素敵なご令嬢と出会って欲しいんだ」

 これは本音。
 素敵なご令嬢と出会って、義姉さまの事、とっとと諦めて。

「ミカエルは親友思いね」

 なんだか、盛大に勘違いしているけど。
 義姉さまとジェスターが一緒にいないなら、もうなんでもいいや。

「ミカエルだってジェスター様に負けないくらい、モテるわ。優しくてかっこいいもの。素敵なご令嬢と出会えればいいわね」

 とりあえず、義姉さまに注意を促し(と言えるかどうか微妙だが)、ホッとしたのも束の間、義姉さまは無邪気な顔で僕に痛恨の一撃を食らわせる。 

「……そ、だね」

 視線を外し、再び窓から町を眺めた。

 ああ、どうすれば、義姉さまに男として見てもらえるのかな……
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