上 下
38 / 298
1年ぶりに……

2

しおりを挟む
「クラリスの役に立てることができて、良かったよ」
「はい! それはもう!」

 ぱぁぁと明るい顔をする義姉さまに、愛しそうに穏やかに微笑み返すジェスター。

 もうホント、そんな顔するなよ、ジェスター。

 僕は2人のやり取りにプイッと顔を背けた。

 ジェスターがあんなに優しげな笑顔を見せるのは、義姉さま、ただ一人。
 正直、落ち着かないし、ドロドロした感情が湧き上がってくる。
 でも、今日は義姉さまが差し入れのお礼の為に設けた場だから、義姉さまの気持ちを踏みにじってしまうような事はできない。
 僕はジェスターが嬉しそうに話しているのを黙って見ているだけだ……今日だけはね。

「クラリス……俺もお菓子の差し入れしたんだけど……」

 アルベルトが横からおずおずと声を出した。

「はい! ありがとうございます、アルベルト様。美味しかった……って言ってましたよ!」
「……言ってた?」

 アルベルトが怪訝けげんそうな顔をして、義姉さまの言葉を繰り返す。

 その点、アルベルトは詰めが甘い。

 僕は満面の笑みをアルベルトにむけた。

「美味しかったよ。アルベルト」
「おまっ……」

 アルベルトは僕に何か言いかけたが言葉を失ったようだ。

「アルベルト様の差入れは、いつもミカエルと勉強中に届きましたので……あまりの美味しさにミカエルがいつも食べちゃうんです。美味しいお菓子がいただけて、良かったわね! ミカエル」
「ええ、義姉さま」

 特段お菓子が好きというわけではないが、君の差し入れは僕がほとんど胃に収めたよ、アルベルト。
 まぁ、子供っぽい意地悪だけどさ。
 義姉さまの婚約者の座にいるんだから、それくらい構わないでしょ?

 ま、婚約者の立場もそれも今だけの事だけどね。
しおりを挟む

処理中です...