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婚約者が……

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 セリナに案内され、アルベルトが入ってきた。

 きれいな栗毛にタンザ王家の象徴とも言える濃いブラウンの瞳、きりっとした顔立ちの好男子。

 あー、やっぱり、同情するのやめ!
 なんだかんだ言っても、婚約者という立場を手に入れたんだから、許せない。

「あー、落馬したって聞いてな……って、お前らもいたのかよ!」
 
 義姉さまは、アルベルトの反応がおかしかったのか、クスクス笑っていた。

「アルベルト様、わざわざ来ていただいてありがとうございます。ご心配おかけして、すみません」
「お前の心配なんて……」

 アルベルトはプイッとそっぽをむくと、小さな声で抗議する。

 そのやり取りをテーブルに頬杖をつきながら見ていた僕は、アルベルトの声すらも腹立たしくて仕方がない。

「よくまあノコノコと……」
「ああ、本当に。よくこれましたね」
「いや、それは……」

 僕はアルベルトの目を睨みつけながら、怒気を含ませた強い口調で声を出し、ジェスターは満面の笑みを向けつつ、眼鏡の奥の瞳で射るようにアルベルトを見据える。
 僕らの怒りに戸惑いながら、アルベルトは視線を合わせるのを避け、口ごもる。

 なんだよ。
 僕達が激怒するのは、想定内だろ?
 まさか、祝福されるなんて、甘い考えしていたわけじゃあるまいし。

 そんな一発触発の雰囲気の中、義姉さまの意気揚々とした声が聞こえた。

「まぁまぁ、2人とも、落ち着いて。アルベルト様が何をなさったかは知りませんけど、きっと反省してると思うわ。ねえ? アルベルト様」

 義姉さまに3人の視線が集まる。
「どうだ!」と言わんばかりの自信たっぷりな義姉さまは、アルベルトに「ですよね?」と同意を求めていた。

 アルベルト様がミカエル達を怒らせた……3人の様子から否があるのはアルベルト様らしい……よし、ここは私が仲介に入り、仲直りを!

 まぁ、おおむねそんなところだろうな。
 義姉さまの考えが手に取る様に僕にはわかる。

 でもね、しいよ、義姉さま。
 アルベルトが僕達2人を怒らせたのは、正しい。
 でも、中心にいるのは、義姉さまだからね。

 僕達3人は顔を見合わせ、大きく溜息をついた。

 たぶん、今、3人の心は1つになったと思う。
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