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婚約が……

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「義姉さま。大丈夫? 休んでいるところごめんね」

 扉をノックし、外から声を掛ける。

「ミカエル? どうぞ~」
 
 予想以上に明るい声が返ってきたので、少し面を食らい、義姉さまらしいや……とクスッと笑う。
 僕は早く義姉さまの元気な顔が見たくて、扉を急いで開けた。

「義姉さま、無事で良かった……」
「心配かけて、ごめんね」

 ベッドで上半身を起こし、ニコニコと笑う義姉さまに、僕も自然と笑顔になる。

「ねぇ、ミカエル。お父さまから聞いたんだけど……私の初めての魔法を見たのってミカエルだけなんだよね?」
「う、うん……」

 義姉さまが……魔道士になってしまった……

 義姉さまの質問に暗澹あんたんたる気持ちが広がり、言葉を詰まらせた。

「なんか……私、変な事聞いちゃった?」
「ううん、そんなことないよ」

 慌てて否定し、僕は自分自身に強く言い聞かせる。

 婚約云々うんぬんはまだ決定じゃない。今は義姉さまが魔道士になった事をお祝いしなきゃ。

「うん、義姉さまの魔法、凄かったよ。僕が魔法を出すまでもなかった」

 本当は僕が守りたかったけど……

 声にできない悔しさを心の中で、こっそりつぶやく。

 でも……凄かったのは本当。
 初めての魔法であの強さ。魔力量の多さは伊達じゃないな。

「そっかぁぁ、私、魔道士になったんだ。てっきり、魔法は発現しないと思っていたのになぁ」

 両手をあげ「うーん」と大きく伸びをしたかと思うと、頬を薄っすら紅潮させ、僕にふふっと微笑みかける。

「初めての魔法がミカエルの前で、良かったわ」


 えっ?
 それって……それって……
 僕は特別……ってこと?


「家族の前で発現して良かったぁ」

 胸の高鳴りをぶち壊す、無邪気な一撃を食らった僕は、そっと目をつむる。

 …………カゾク……ウン、ダヨネ。
 
 間違ってないよ、義姉さま。うん、間違って……ないよ……
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