1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃

文字の大きさ
上 下
11 / 298
お披露目パーティーで……

3

しおりを挟む
 まるで、氷が張ったようなピキッとした緊張感が漂い、音楽だけが、ただ静かに流れているという空間と化した会場。
 大人達は困惑した表情のまま、誰一人として、最初の言葉を発しようとはしなかった。

 この重い空気を破ったのは、どこからともなく、タタタタッと駆け寄って、僕の事をギュウと抱きしめた義姉さまだった。

「ミカエル! 魔力があったのね! すごい強い魔力だわ」

 僕の混乱をよそに、義姉さまは、こぼれんばかりの笑顔で僕を見つめ「おめでとう」と耳元でつぶやくと、びしょ濡れで呆然としているマドリア伯爵とゼロフ男爵の方をクルッと向いた。

「マドリアのおじさま、ゼロフのおじさま、我が義弟おとうとが失礼致しました」

 義姉さまの声に我に返った2人は、全身が濡れた事、皆の前で恥をかかされた事に、カッと顔を赤くし、憤怒の形相を僕に向けた。

「どうしてくれる……」
「おじさま達に水をかけてしまい、申し訳ございませんでした。ミカエルは魔法を発現させたのです。初めての魔法ですから、少し暴走してしまったのですわ。本当にごめんなさい」

 2人は会場にいる全員が固唾を呑んで、僕達のやり取りを見守っている事に気がつき、丁寧に謝罪している子供に声を荒げるのはまずいと思ったのか、引きつらせながらも、無理矢理、笑顔を作る。

「あ、ああ……大丈夫……だ。おめでとう。ミカエル様」

 心にもない台詞が発せられたが、義姉さまの言葉に動揺し、全く頭には入ってこず、何度も何度も同じ言葉を心の中で繰り返す僕。
 
 魔法が発現した……? 魔力ゼロの僕が?
 そんな事……ありえるの?
 ……
 ……
 いや、それは後で考えよう。
 しっかりしなきゃ。

 混迷していた心を、無理矢理、現実に戻し、とにかく場を収めなくてはと、僕は深々と頭を下げた。

「マドリア伯爵、ゼロフ男爵、大変申し訳ございませんでした。あまりに急な事で僕自身もコントロールできず……申し訳ございません」
「我が息子が申し訳ございません、マドリア伯爵、ゼロフ男爵。別室に着替えをご用意しましたので、そちらでお着替えください」

 混乱しながらも、できるだけ丁寧に頭を下げていると、後ろから義父さまの声がし、僕に嬉しそうに笑いかける。

「すまなかったね。ミカエル。こんな大事な時に席を外していて。魔法を発現させたんだ、疲れただろう。君は少し休みなさい。後で詳しく話は聞くから……皆様、お騒がせ致しました。本日、アルフォント家次期当主は、魔道士になりました。めでたい事が重なり、喜ばしい事です。どうぞ、このめでたい日に、思う存分、楽しんでいって下さい」

 義父さまが招待客にむかって、にこやかに話しかけると、僕を祝福する声があちらこちらで響き渡った。

 氷が解け、水が流れていくように時が動き始める。

 義姉さまは、僕の手を握り「行こっ。ミカエル」と歩き始めたが、ふと立ち止まり、振り返った。

「マドリアのおじさま。私、マドリアのおじさまのご子息と結婚するつもりはございません。私、美人ではないですけど、20歳も上の方と結婚なんて、こちらからお断りですわ」

 義姉さまがにっこり笑う。

 話を聞かれていたことに驚き、ばつの悪そうな顔をした2人を盗み見ては、胸のモヤモヤが晴れた気分になり、僕もこっそり笑ってしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...