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昔話を……

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 僕、ミカエル・アルフォントは7歳の時にアルフォント公爵家の養子となった。

 亡くなった母がアルフォント公爵夫人の妹で、僕と義姉さまの血縁関係は正しくは従姉弟いとこ

 シーメス男爵の長男として生まれた僕は、大好きな母を病気で亡くしまう。
 父はすぐに再婚をし、義母ははとの間に異母弟おとうとが生まれた。父も義母も異母弟おとうとに爵位を継がせたかったのだろう。

 僕はシーメス家の邪魔者になってしまった。

 父が僕に愛情どころか、興味すらない理由は僕の魔力がゼロだった事が大きかったかもしれない。

 魔力を持ち、なおかつ、魔法を発現した者は「魔道士」と呼ばれるこの世の中で、当主が魔道士である事は、家の繁栄にも繋がる。
 国王様とのお目通りもかない、じかに仕事を任される事も多々あるからだ。

 ただ、貴族でも魔力持ちは少数派。
 王家の血筋に近しい者程、魔力を持って生まれてくる確率が高く、よって身分の高い貴族に魔道士が多くなるのは必然になる。
 子爵、男爵の身分だと、魔力なし、或いは、魔力はあっても発現しない者が大多数なので、僕が魔力なしだとしても、さして珍しい事ではないのだけれど。

 それでも、父はどうしても魔道士の息子が欲しかったのかもしれない。
 生まれたばかりの僕の魔力測定器が示したゼロの数値を見て「こんな息子いらぬ」と言い捨てたらしい。

 一応、男爵家の子息として衣食住は最低限与えられていたものの、父はその言葉通り、僕という存在を無視し続けた。

 そんな日々を送っていた時、アルフォント公爵夫人が妹の忘れ形見である僕の現状を耳にして、アルフォント家が養子に迎えてくれた事で僕の人生が大きく変わる。

 シーメス男爵家では居場所がなかった僕の手を握り、部屋から連れ出し「義弟おとうとができて嬉しい!」と、とびっきりの笑顔をむけてくれたのが……クラリス・アルフォント……義姉さまだった。

 心にポッと明かりがともったような、あの温かい気持ちを僕は一生忘れないと思う。
 
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