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懸念 ―ケネン―
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しおりを挟む僕の頭は疑問符だらけだが、クラリスの事だけは曖昧にできない。ちょっとでも隙を見せたなら、ザラに言葉尻を捉えられ、僕の意図せぬ状況になりそうで怖い。
「ザラ先生、僕はクラリスの事、絶対に諦めません」
きっぱりと言い放つと、ザラは薄紫色の瞳をチラリと動かす。僕を一瞥し、交渉決裂と悟ったのか無言で転移魔法を発動し始め、青き魔法の光がザラを包んだ。
「……諦めません。が、今、僕を王宮に連れて行くのが得策です。アルベルトとクラリスが2人きりというのは、あまり良い状況とは思えないのですが……」
クラリスの事で感情を動かすであろう事を察し、それを理由に僕を王宮に連れて行くよう、もう一度提案する。案の定、青き光はスッと消えた。
ザラがクラリスに特別な感情を持っていることを確信するとともに、厄介なことになったと僕は困惑する。
あの氷銀の大魔道士が恋……ではないと思いたい……いや、ほんと、やめてくれ。これ以上恋敵は増やしたくない。しかも、魔道士の頂点に立つザラが恋敵なんて身の毛もよだつ。
想像しただけで背筋が寒くなるも、とりあえず、今はクラリスとアルベルトの方が問題だ。
「……で?」
ザラに冷淡な声色で次の言葉を促され、僕は気持ちを切り替える為に咳払いを1つした。
「先生はご多忙でしょう? 僕がアルベルトとクラリスの様子を見てきます。王子とは言え、アルベルトも男ですよ? しかも、婚約者の肩書があるんですよ? 2人きりですよ? 男女が2人きりですよ? いいんですか? 2人きりですよ?」
本当に……ほんっとうに不本意だが、アルベルトが男であり、婚約者である事、2人きりという事を強調し、畳み掛ける。
2人きりという単語に、普段は無表情のザラが不愉快そうに眉根を寄せた。僕も自分で言ってて、頬がピクピク引きつるのを止められない。
ザラはくるりと背を向け、右手の人差し指をクイッと曲げ、僕に合図を送る。
「王宮に帰りますよ。早くしなさい」
急かすザラの変わり身の早さに慌てる僕。急いでザラの隣りに立つと、転移魔法の青き光がブワッと勢いよく僕とザラの周りを囲んだ。
ほんの数秒で、薄暗い刈場からザラの執務室に景色が変わる。
さすが大魔道士ザラだ。
手短にお礼を言い、執務室の扉を急ぎ開けると、目の前に大きな人影が現れた。
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